第10章:逃げるが勝ち

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 警視長との話し合いが終わり、自席に戻るとデスクの電話が鳴る。 「もしもし、沢口です。岩崎さんですか?」…沢口女医からだ。なんとなく柏木ちゃんの方を見てしまう。 「光ちゃんのホルモンテストの結果、お知らせしたくて…。今よろしいでしょうか?」 「はい。大丈夫です。」  …脳検査だけじゃなく血液検査もやったんだ。すっかり、忘れていた。 「足りないと思っていた、女性ホルモン…プロゲステロンですが、正常値が確認されました。光ちゃん、もうすぐ初潮をむかえるかもしれません…。」  へー。それはおめでたいですねっ…て受け取るべきの事案でないのが残念だ。 「そうですか。…外見にあまり変化は見えませんが…。」  プロゲステロンは不細工ホルモン。  浮腫んだ様子はなかったぞ。…稚拙な知識が働く。 「検査で会った時、光ちゃん、前より安心していた感じがします。今の状況が意外に心地よいのかも…。」 「逮捕されている状況がですか?」 「はい。安全なシェルターで守られているっていうのかしら。光ちゃん、かなりのプレッシャーをかけられていたのかも、学生生活をしていた時は…。」  同じ中学生女子は、スクール水着の盗撮の件は、みんな知ってるって言ってたな。  自分が男子に性の対象として、晒されているのを知っていたのかも。 「そうですか。昨日は凄くイライラしていて、両親に罵声をはいていたんです。」  俺もその被害を受けた。ポンコツとか童貞とか…微妙に嫌な暴言だったな。 「プロゲステロンは、女性がヒステリーを起こす要因なので…。」 「なるほど…。」 「光ちゃんは、岩崎さんを頼りにしています。私が言うのもおこがましいですが、近くでサポートしてあげてくださいね。」  最後にそう言って、沢口女医は電話を切る。  今日は午後から光の取り調べだ。  現場捜査をしてから、事件はかなり進捗している。  凶器の手術用のメス、オリュンポス十二神のサイン、現場に置かれていた謎のメッセージ。  取り調べ時間は、なるべく短くすませたい。  柏木ちゃんを呼び、午前に30分の緊急の打ち合わせを頼んだ。  いつもの主要メンバーに加え、現場捜査にいた松村くん、画像解析をしている山下くんにも参加してもらう。
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