第10章:逃げるが勝ち

8/12

416人が本棚に入れています
本棚に追加
/286ページ
 次に、凶器になったメスの写真を見せる。 「この手術用のメスに、見覚えはある?」 「あります。凛ちゃんが家から持ってきたメスです。」 「実は、先週金曜病院の手術室で見つけたんだ。」  その時一緒に見つかったパピルス紙のメッセージ「Pls. Catch me.」の写真を取り出す。 「このメッセージが添えてあった。光ちゃんが前にいた時には、凶器のメスとこの紙は、なかったよね?」  光は無言になる。なんだか驚いている。 「大丈夫?」心配になり声をかける。 「すみません…。びっくりして…。」 「どうして?」 「それ、私が書いたメッセージだから。」    パピルス紙のメッセージは光が書いた?なんでまた? 「いつ書いたか覚えてる?」まずは事実確認だ。 「半年くらい前…。」光は考えてから答えた。 「どこで書いたの?」 「廃墟病院。あれは剣宛のメッセージだったの。」 「特殊な紙だよね。どこで買ったの?」 「剣からもらったんです。ギリシアのお土産だよって。」  光の中で、剣はまだ生きている。ここは否定せずに、そのまま受け止めよう。 「メッセージは伝わったのかな?」  私を捕まえて。光はなぜ剣くんに、そんなお願いをするんだろう? 「わかりません…。でもメッセージがまた廃墟病院にあるっていう事は、何か意味があるのかもしれません。」  今日の光は敬語が多い…。俺の質問が高圧的になってしまっているのだろうか。 「少し話題を変えていいかな…。この人に見覚えある?」  コインロッカーで、ゼウス用携帯を格納していた黒づくめの人物の動画を見せる。 「…あります。」  え?あるの?聞いておきながら、ちょっと意外だ。 「どこで見たの?」 「学校の近くです。この人、足を引きずってますよね?この動画だけじゃよくわからないけど。何度か待ち伏せされて『ちょっとだけ』気持ち悪かった。」  それは『かなり』気持ち悪いだろう。やっぱり、恐怖を感じにくいのかな。 「話した事はある?」 「ないです。一定の距離をおいて、つけてくるんです。毎日とかじゃなく半年くらい前から、たまに現れるの。」 「誰かに相談した?」 「してない。つけてくるのは、その人だけじゃないから…。」  光は憂鬱な顔をする。  ストーカーがいたのは、同級生も証言していた。  沢口女医が言うように、強がっているが…辛い学生生活を送っていたんだな。  
/286ページ

最初のコメントを投稿しよう!

416人が本棚に入れています
本棚に追加