第10章:逃げるが勝ち

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 結局…柏木ちゃんを誘えなかった。  奥さんと娘がアイドルのコンサートに行ってしまい、家に帰っても誰もいないと…嘆く、徳永警部補と急遽サシ飲みになる。  クリスマスムードは一切ない…警視庁近くの小料理屋で、2人で熱燗を飲む。 「岩崎さんにお付き合い頂き助かりました。若いのに車好きだし、酒も飲めるし、オッサン達からしたら本当いい人材ですよ…。」徳永さんは、嬉しそうにお酌してくれる。 「実家は田舎で…学生時代も男ばっかりだったんで…。」  クリスマスイブに警部と警部補で飲むのも悪くない。去年は俺の出世でギクシャクしていたし…。 「今回の事件、早乙女家が黒幕だって思っていたんです。」徳永さんは小声で言う。  定時前の打ち合わせで、守屋杏奈の売春疑惑や早乙女海人の関与について共有したばかりだ。  そういえば、皆が驚く中、徳永さんは沈黙していたな…。 「前に岩崎さんと町田の病院に行った時、変な目線を感じませんでした?」 「はい。…まるで誰かに見られているような…。」 「あれは…早乙女海人かもしくは関係者じゃないかなって、今思うんですよ。全く、未成年売春する組織なんて、フザけてますよ…。」  娘を持つ立場からすると、余計腹が立つだろう。 「大石光は、組織に狙われていたのかもしれません。」 「うむ。廃墟病院のビジネスは、キナ臭い部分があったみたいです。早乙女家って元々東北の旧家でかなり財産もあって、あの土地を買い取った公共団体も絡んでいるみたいで…。」 「…よくご存知ですね。」 「厚木警察署の連中から聞いたんです。廃墟病院を潰して、葬儀場にする予定だったそうです。今回の事件で、一旦保留になったようですが。」 「…葬儀場ですか。また、特殊なビジネスですね。」 「人身売買が関わっている早乙女海人が、死体処理できるように…かもしれませんよ。」徳永さんはホラーチックに言う。  怖いので、そんな事を言わないで欲しい…。 「でも…かなり捜査しやすくなりました。徳永さんが組織犯罪課とやり取りしてくれるので、本当に助かります。厚木警察署との連携も徳永さんのおかげでスムーズに進んだし…。」話を変えつつ、本心を伝える。  徳永さんは照れ臭そうに笑う。  やっぱり、今日は2人で飲めてよかった…。
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