第11章:君には大きな翼があるから

6/20

416人が本棚に入れています
本棚に追加
/286ページ
 薄井検察官とブレストした2人用の会議室に、柏木ちゃんと一緒に入る。 「岩崎さん、コーヒー持ってきましょうか?」柏木ちゃんは、事務的に聞く。 「いや、大丈夫。柏木ちゃんが飲みたいなら持ってくるけど…。」 「岩崎さんに、そんな事させられません!」    …なんだか、ヨソヨソしいぞ。 「最近、忙しいけど…体調大丈夫?」柏木ちゃんの目を見つめて聞く。  部下の変化に気づくと、早めに個別に呼んで話をするタイプだ…。  柏木ちゃんの態度は、明らかにおかしい…。 「大丈夫です。ただ…。」柏木ちゃんは、言葉を濁す。 「ただ…?」どうしよう、スケベなお前が嫌だ!とか言われたら。 「最近自信が揺らぐんです。正しいってなんだろう…って。」 「そうか…。大石光が怖い?」 「いいえ。怖いっていうより…可哀想って思ってしまうんです。それって光ちゃんが一番傷つくってわかっているんですけど。」 「可哀想か。ある意味そうだな。大石光は脳に障害がある。同じ状況に遭遇すると、また間違いを犯すかもしれない。」  柏木ちゃんは、涙ぐむ。  エリート刑事の娘として、品行方正に生きてきたから、少年少女が大きな理由なく殺し合う事件は辛いんだろう。  数分、真剣に考える。柏木ちゃんも何も言わず、沈黙が流れる。 「柏木ちゃんは、将来警視長になれる人材だと思っている。何が正しいかを真摯に考え、行動しているからだ。今回の事件は、大石光を含め、全員大人に利用された被害者だ。改めてだけど…大石光に対して抱く『可哀想』という感情は間違っていない。」  急に真面目に話し出したので、柏木ちゃんは驚いている。 「事件は、まだ解決していない。大石光の脳の障害を、悪用した人物がいる可能性がある。廃墟病院での実況見分まで、当時の状況を一緒に探ろう。大石光は、『可哀想じゃない』かもしれない…。正しい選択をして、生き残ったサバイバーかも。」  柏木ちゃんは、泣き止んだ。 「言ってなかったけど、大石光は…もう直ぐ…初潮を迎えるそうだ。大人の女性になっていくんだ。柏木ちゃんが、今一番、大石光に寄り添う事ができる。だから、引き続き協力して欲しい。」 「…はい。」  事件を追っていくと、ゴールがわからなくなり、どうしょうもなく不安になる瞬間がある。柏木ちゃんは、真面目なので、一回悩むと中々そのループから抜け出せないタイプだ。  前向きになってくれたような気がするので、冗談でも言おう。 「警視長になりたくなかったら…俺の嫁っていう選択肢もあるけど。」 「もう!本気にしますよ!」 「本気にしていいよ。今夜、飯でも食いながら話そうよ。」 「あ、前に言っていたクリスマスディナーですね。…嬉しい。」    やった!本題まで持っていけた!  もう帰っていいんじゃないか?ってくらい仕事した気分だ。    
/286ページ

最初のコメントを投稿しよう!

416人が本棚に入れています
本棚に追加