第3章:死人に口無し

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第3章:死人に口無し

 自席に戻ると、柏木ちゃんが甲斐甲斐しく話かけてくる。 「岩崎さん、急で申し訳ございませんが井上警視が呼んでいます。先ほど打合せした会議室でお待ちです。」 「了解。柏木ちゃん、お昼ちゃんと食べた?無理すんなよ。」さりげなく甲斐甲斐しい返しをする。  大石光の捜査進捗を知りたいのだなと思い、関連資料をまとめたファイルを持って会議室に入った。 「岩崎くん、急に呼び出して悪いな。わかっていると思うが大石光の件で確認したいんだ。」 「はい。井上警視もご同席されていた通り第一回目の取調べが終わりました。被害者全員とSNSで繋がっていたのを確認できましたので、大石光が彼らになぜ接近したかを調べています。死体が発見された廃墟病院の調査は今週中に行く予定です。また大石光の家宅捜査も実施し動機の手がかり等を調べる予定です。」 「検察に提出する資料はいつ頃上がりそう?」 「調査結果を踏まえたら1週間程度です。勾留期間の10日以内には検察が起訴できる内容までまとめます。」 「岩崎くんは相変わらず心強いな。知っていると思うが大石光の逮捕理由は『死体遺棄の疑い』だ。今日の取調べではまだ十分ではないが『殺人の疑い』も考えられる。そうなると追加で勾留期間が取れるから慎重に調査してくれ。」 「はい。承知致しました。」 「しかし、大石光は不気味なくらい綺麗だったな。あんなに綺麗なのにわざわざこんな事件を起こすなんてな…。」  井上警視はため息をついた。  彼は総じていい上司だと思う。温厚な性格で正義感が強い。    しかし今回の件もそうだが、少し秘密主義な部分がある。然るべき時まで自分だけで情報をストップするタイプだ。まあ、組織の上司たる立場なので必然な行動なのだろうけど。  おそらく、大石光の事件は共有していない情報がありそうだ。    井上警視が共有する必要がないと判断しているなら構わない。質問はせず、すぐに会議室を出た。
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