第4章:普通の難しさ

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 ⑴ 動機の了解可能性:あり  ⑵ 犯行の計画性:なし  ⑶ 違法・反道徳性の認識:なし  ⑷ 精神障害による免責:なし  ⑸ 人格と犯行の異質性・親和性:あり  ⑹ 犯行の一貫性・目的性:あり  ⑺ 犯行後の自己防衛・危険回避的行動:あり 「引き続き調査が必要ですが、7つの着眼点の鑑定結果はこんな感じでしょうか。」    ボードに書いた内容を薄井さんに見てもらう。 「うーん。⑵の犯行の計画性は廃墟病院になぜみんなで行ったかを聞き出す必要があるわね。あとはゼウスが誰かもまだわかっていないし。今時点で刑事責任有無は確定できないわね。」 「そうですね。⑴の動機と⑶の違法・反道徳性は大石光の未熟性を表していると思います。脳診断で裏付けが取れるかもしれません。」 「岩崎くんの提案は正解だったわね。早めに診断許可を取っておいてよかったわ。」 「警察病院の脳ドックは去年から設備がパワーアップしています。情動を司る扁桃体や、異常行動にブレーキをかける前頭前皮質組織の活動状態を調べることができます。」 「そうね。未成年は前頭前皮質組織がまだ完全に発達していない…。扁桃体の異常も見つかれば刑事責任能力は限定されるわ。」  薄井さんは以前と比べると角が取れたような気がする。何かと意見に突っかかる傾向があったが協調性が高まったようだ。  検事職についてから苦労したんだろうな。  社会に出て働くのは人を大きく成長させるのだ。  大石光にも将来のチャンスを与えたい。  一通り話した頃にはすでに6時を過ぎていた。  薄井さんは遅くなったら申し訳ない、とそそくさと去ってくれた。  光はもう夕食を食べたかな。  味気ないメニューを無表情で口に運ぶ姿を想像すると何だか胸が痛んだ。
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