第2章:冷たい共感力

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「オオイシヒカリです。」  部屋に入ったと同時に、ピアノの右端の高音のような声で大石光は自分の名前を言った。  自ら名乗ったのは巡査員から入室前に指示されるからだが、成人した奴らでも緊張もしくは反抗心のせいで言えない事が多い。  至近距離に大石光が入り、柏木ちゃんは緊張を隠せないようだったが、段取り通り彼女を部屋の上座の席に導き、ゆっくり対面の席に腰を下ろした。  俺は椅子に座らず柏木ちゃんの左隣に立つ。  大石光と目線を合わせないためだ。 「初めまして。私は柏木さゆりと申します。彼は岩崎警部です。今日はよろしくお願いします。」  緊張のせいか少し震えた声で柏木ちゃんは話を始める。    全く…相手は女子中学生なのに隙だらけだ。    まあ、そこが今日の彼女の役割でもある。  初回なので相手の警戒心を解き油断させたい。  大石光は一瞬俺を見上げたが、すぐ目線を柏木ちゃんに戻した。  目が合ったのは1秒足らずだが、恐怖を感じる機能の「扁桃体」は視覚が捉えた情報を即座に危険信号として全身に送る。  暗闇で光る毒蛇と目に合った感覚に陥る。  呼吸が荒くなるのをぐっと抑え、全力で柏木ちゃんを応援する。 「ハジメマシテ。カシワギさん。スゴくキレイなケイジさんですネ。」  若いと声のヘルツが違うのだろうか?  先ほどから大石光の声が脳内でカタカナ変換される。慣れるまで少し時間がかかるかもしれない。 「あ、有難う。ヒカリちゃんって呼んでもいいかな?」  開口二番目からもう大石光のペースだが、いい感じだ。  会話開始と同時に、俺は慎重に大石光の観察を始めた。
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