第4章:普通の難しさ

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                 ・     翌日の朝、オフィスで柏木ちゃんと佐藤さんと打ち合わせた後、すぐに徳永警部補と厚木市の光の実家に向かう。  すでに家宅捜査班は現場に到着し、作業を進めている。半分くらい作業が終わり、何か発見があった頃に聞き込みをしようという計画だ。  しかし…世間の光への注目はどんどんエスカレートしていく。  佐藤さんが監視しているSNSは「#廃墟病院の悪魔」「#悪魔たん」と光についての投稿が相次ぎトレンドワードの上位を占めている。    警視庁を出る際、光を支援する団体が入り口付近にたむろしているのが目に入る。  20〜30代男性がほとんどで「悪魔たん♡」と横断幕を持っている人が数名いる。  光がアイドルだったら間違いなくファンがたくさんできるだろう。  可愛らしい衣装が似合うのは容易に想像できる。ステージの上で笑顔で踊る姿には違和感があるが…。 「すごい盛り上がりですね。記者も警視庁の周りを張っているし、明後日、大石光が警察病院に行く際は警備体制強めた方が良さそうですね。」徳永さんはため息をつく。 「そうですね。柏木ちゃんを大石光に変装させてオトリみたいにさせましょうかね?」半ば本気のジョークを返した。 「ははっ。そのくらい大きな仕掛けが必要ですな。今回の件で、うちの大学生の娘が『子供を産みたくない』って言うようになったんです。子供が犯罪に巻き込まれたら困るし、ましては加害者になるかもしれないって。」    徳永さんは由々しき事態だ…というニュアンスで話す。 「未成年の脳はまだ情動をブレーキをかける部位が発達していないので、ふとしたきっかけで犯罪に巻き込まれるケースが多いです。今回の件も全て計画されていたというより、偶発的に死者が出てしまった感じもします。犯罪に巻き込まれるのは交通事故に近しい。」 「岩崎さんがお話しする脳科学の研究、興味深いです。大石光は脳に問題があるという仮説。普通な子に生まれてくるって難しいなって再認識しました。」  穏やかな口調で徳永さんは話す。 「徳永さんに興味深いと言って頂けて嬉しいです。俺も普通って難しいと思います。誰だってすぐ世間がいう普通から逸脱しうるんです。」  光の両親に会うのは正直気が重い。  同情の念がだんだん強くなってきている…。  …俺も「光たん♡」って横断幕作ろうかな。
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