第六章     揺れる境界

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第六章     揺れる境界

 どうして、あそこであんなことを言ってしまったんだろう。  誰にも言うことはないだろうと思っていた心の砂漠を、どうしてああもあっさりと言ってしまえたんだろう。あの時、なぜか、吸い込まれるようについ口にしてしまった。  きっと、疲れていたせいだ。  クレアはそう思った。否、思うことにした。  疲れていたから、ジェルに肩を抱かれても、なかなか気にならなかったし、さして反抗する気も起こらずに、彼の言葉を聞けたのだろう。  クレアはベッドの上で、目が覚めた時のままの状態でじっと天井を見つめながら考えた。  久々にゆっくりと眠ったような気がする。そのせいか幻の霧も、その向こうの悲しい幻も、心なしか薄くなったような気がする。戸惑っていたはずの自分の影が、なにかを見つけて安心しはじめている。それと同時に、戸惑うことに慣れて、それで落ち着いていた自分が環境の変化に気がついて、じっと息をひそめて経過を見守っている。世界は常に、人気のない透明な空気と、どこか暗い影を持つ淡い光の中だ。夕暮れか月の夜か、それとも夜明け前なのか、はっきりしない。その中でなにかが少しずつ変わり始めている。  自分の自我が、多少危うくなっているのは、充分承知している。承知しているからこそ、現実で今なにが起こっているかをちゃんと知ることができる。  たとえ関心は持てなくても、実際の問題だと関知することはできる。だから大丈夫だ。うまくバランスはとれる。  寝返りをうつと、壁にかけた絵が目に入ってくる。抽象画なのではっきりとこれはなに、ということはできないけれども、なにか心に訴えてくるものがある。その絵を描いた画家の名前をあげた時に、すぐに連想される程有名な絵ではないけれど、とても好きな絵だ。抽象なだけに、イメージが限定されずにすむ。変に絶対的でないので、いいと思う。特に、こんな風にぼうっとしている時はこの方がいい。  クレアはポケットに入れたままだったカードを取り出して眺めた。この中にウィルにもらったメッセージが入っている。  『絶対的な価値』というものは存在しない。価値観は常に変幻自在である。  ジェルは部屋で一人、何年も前のファイルを引っ張り出してきてデータを開いてみた。よくもまぁこんなもの取っておいたものだと思うくらい、その気にならなければ読む気も起こらないものだ。  ジェルは背もたれに深く沈んでため息をついた。  普段は忘れていても、たまにふっと読み返したくなる。なにかが心にかかって引き寄せられる。これを初めて読んだのは十六の時、アカデメイアに入ったばかりの頃だった。あの時は、なんとなくニュアンスで判ったような気になっていたけれど、こうやって読み返すたびに現実の重さを伴ってきて、十年以上経った今でも完全に理解したとは言えない。読み返す度になにがしかの発見がある。それに、年を経る毎に段々と、こんな難しい話を考えなくなってきているということもある。当面の問題ばかりが山積みされてて、到底そこまでは手が回らない、ということもある。そう、無意識を意識する前に、現実を意識していなければならない。  クレアはどうしているだろう。  時間的に言えば、今は真夜中だけれども、時間による景色の色彩の変化がない宇宙の真ん中にいるので、真夜中であるという感覚が今一つ乏しい。  ジェルは、ふと優しい気持ちにかられ、優しく遠い目をした。  再び眠りから覚めたクレアは、Jとアクセスを始めていた。ジェルに思わず口走ってしまったことで多少動揺したものの、また均衡がとれてきた。キーをたたく手には確かさがある。  しばらくして、いつものようにJが画面に現れた。 「久し振りにアテラのデータ見せてくれる?」 『どのデータですか』  クレアの急な物言いにも、Jは動じた様子はない。 「絵、グラフにできるもの総て。三秒置きにすり替えて」 『それでもかなりの量になりますよ。……いいでしょう、私が適宜ピックアップしましょう。なにか特別に見たいものがありますか』 「ないわ。なんでもいい」  クレアがうなずくとすぐに画面が切り替わって、様々なデータが次々と出されだした。クレアはそれにざっと目を通す。データそのものは既知のものばかりなので、細部まで見なくても、記憶を呼び覚ますことができる。  一枚の絵に三秒程度。これを一分もすれば結構な数を見ることができる。それに、そのスピードだと目も疲れてくる。それを知ってかどうか、それは二分程で打ち切られた。 「ありがとう。感覚が戻ってきたわ」 『どうしました。また『危うく』なったのですか』 「ちょっとね。大丈夫、周りは見えてるから」 『それならいいのですが。アテラのデータはそんなに面白いですか』 「えぇ。とても興味深いものよね」 『興味深い、ですか。なかなか含んだ言葉ですね。でも、アテラそのものに絶対的なものを見ている訳ではないのでしょう?」  二人の顔はいつものように穏やかで、雑談でもしているような雰囲気だ。 「もちろん」 『絶対的な価値、と言えば、昔そんな文章がありましたね。覚えていますか? ウィルが持ってきた、『絶対的な価値』というものは存在しない、っていうあれですよ』 「覚えてるわよ。読んだ時はショックだったもの。誰が書いたのかは覚えてないけど、書いた人は十七でそれを書いたっていうので、どんな精神構造してるんだろうと思ったもの。でもね、私それを訂正したいな。『絶対的な価値』ではなくて、『絶対的な価値観』というものは存在しない、ってね。その方が文章としては素直に、また判りやすくなると思う」 『ウィルとの共同研究ファイルにそう書き加えますか』 「別に。そこまでする程のことでもないと思うもの。要はその人それぞれの感じ方の問題でしょう」 『その割り切り方、好きですね。あなたのその言葉を私が覚えておきますよ』 「たくさんの人が、きっと私と同じことを言うわよ」  そう言って微笑んだクレアは、とても二十二には見えない。実年齢よりずっと大人びて見えるのをJは静かに見ている。 「自己認識という点でのみ言えば、私は『絶対的な価値観は存在しない、故に真の自由は存在たりえない』という風になると思うけど、それ以外の点では判らないもの。そうね、ジェルならここで『明日』の存在定義に入っていってしまうかもしれない。そうね……」  クレアはあごに手をやって、考えながら、一言一言、ジェルの真似をしながら言葉をつむぎ始める。 「明日、というものが、たった今、ここに自分がいる、ということの連続だけで定義されるのならば、その各人の行動は怠惰的になるだけで、なんの発展性も認められない、とかなんとか。いかにも言いそうじゃない?」  笑みがこぼれる。どうしてここでジェルを思い出したのかはクレアには判らなかったが、それもクレアは笑いとばそうとした。  Jは、まだ純一と呼ばれていた昔のことを思い出した。 ***  学生寮の階段を四階まで昇り、慣れたこととはいえ少し足に疲れを感じながら部屋のドアに手をかけたところで、階段の方からケリーの呼ぶ声が聞こえた。なにげなしにひょい、とアレクサンドルは振り返る。振り返ったときには、すでに、もうかなり近くまで来ていて、息を弾ませて見る見るうちに目の前に立った。 「なに、どした?」 「勉強ちょっと教えてよ」 「なんだそんなことか。ほら入れよ」  そう言ってアレクサンドルがドアを開けると、ケリーは滑り込むように、その赤みがかった栗色の髪を鼻先でかすめて部屋に入った。そして、アレクサンドルが部屋の明かりをつけるかつけないか、という間のうちに、机の上に持ってきた教科書だのノートだの参考書だのを広げて、アレクサンドルを呆れさせた。 「どうしたんだお前。熱でもあるのか」 「え、元気だよ? ほら、早くこっち来て教えてよ」  ケリーはアレクサンドルの方を見ようともせずに、荷物を広げ続ける。アレクサンドルはそんなケリーをいぶかしみながら、椅子を引いてきた。ケリーは新しいノートをひろげて急かすようにアレクサンドルを待っている。 「新しいノートか。ちゃんと名前書いたか? また先生にチェック入れられるぞ」 「へ? あ、そっか。忘れてた」  さっと表紙に戻してケリーは名前を丁寧に書き始めた。『五年Bクラス、ケリー・オースティン』と書き終えると、次を期待する子犬のように、ぱっと顔を上げてアレクサンドルを見た。 「書き終わったよ。教えてよ」 「お前さぁ、なに焦ってんの? どれを教えろって言わなきゃわかんねーだろ」  アレクサンドルはケリーの積み上げた教科書の山をトントンとたたいて見せる。 「へへっ、ごめん。プログラムの宿題の話したくてさ。そればっか考えてて他のことがなんにも手に付かないんだ」 「グリンダ先生のやつ? あれは、明日の朝から純一と一緒に三人でやろうって決めてるだろ。ふうん、そうか。それじゃあ、そんな状態のやつになにを教えたって意味ないな」  半ば呆れたように、からかうような目つきでアレクサンドルが言うと、ケリーは頬を不満そうに少し膨らませた。 「なんだよ、大人ぶっちゃってさ。いくら学年が一つ上だからって、サーシャなんてこの間十二になったばっかりじゃないか」 「なにすねてんだよ」  ケリーに愛称で呼ばれることにまだ慣れていないアレクサンドルは一瞬戸惑いを覚える。  ケリーは確かロシア語は苦手ではなかったか。そして、相変わらず仕方のない奴だな、と心でつぶやいてケリーの頬をちょん、とつついてみせた。 「そういうことするのも、大人ぶってる」 「はいはい。それで? なにを教えればいいんだ?」  アレクサンドルは、心で軽いため息をつく。  地球上に二つしかない、アカデメイア入学のための特別学校だと言っても、子供というものは、そう変わらない。  同じ寮の、こちらは五号館の三階にある部屋で、純一は熱心に絵を描いていた。窓越しにアレクサンドルの部屋の明かりも見えているけれども、気にしているわけではないので、今、そこにケリーが押し掛けてきて、アレクサンドルにいぶかしがられているなんて、見当もついていない。  どこかでなにか鳴っているような気がする。  小さな絵を一心不乱に描いていて、いつものように電話が鳴っているのに気づくのに時間がかかった。いつも、なにかが鳴っているような気がする、などと思ってからようやく気がついて、やっと電話に出る彼にとって、気がついた瞬間に電話が鳴りやんだり、電話に出ようとして受話器を取り上げたその瞬間に切れてしまう、なんてことは日常茶飯事だ。それでよく怒られたりしているのだが、純一はそれを気に病むでもなく電話を今日も鳴らしている。今も気づくのにどうやら時間がかなりかかってしまったようなので、取る寸前で切れてしまうんじゃないか、と思いながら純一は受話器を取った。 「もしもし」 「あぁ純一? 今から僕んとこ来いよ。ケリーが来てる」  アレクサンドルは、純一が電話に出るのが遅かったことについては、どうやら慣れているらしくなにも言わない。 「今からぁ?」  そう叫んで、純一は思わず顔を上げて時計をまじまじと見つめた。 「サーシャ、何時だと思ってんだよ。もう八時過ぎてるよ」  純一がサーシャと呼ぶことには慣れた。  ケリーと知りあってまだ日の浅いアレクサンドルは、そんなことを漠然と考える。 「まぁそう怒るなって。プログラム作りの例の宿題、一緒にやろう」 「明日やろうって言ってた奴? ……ケリーでしょう、そんなわがまま言うのは」  純一はひょい、と振り向いて向かいの棟の部屋を見た。ケリーらしき人影がこちらに向かって手を振っている。 「そう、あいつはこう言うんだ。他のことがなんにも手に付かない、って」 「ったくしょうがないなぁ。明日は休みだから、一日使ってそれやろうと思ってたのに。まぁ、ケリーらしいけどね。わかった。じゃあ今から行くよ」 「すぐ来いよ。じゃ」  電話を切って、純一は筆箱とノートと教科書をカバンに放り込む。そこで、アレクサンドルの部屋のお茶が残り少なくなっていたのを思い出して、紅茶の缶を一つ取って部屋を出た。一見きれいだが年季の入った階段の、木の手摺を横目に二階に降りて、渡り廊下を使って六号館へ渡る。寮母のおばさんに見つかると怖いので出来るだけ走らないようにしながら、でもかなり早足で。廊下の絨毯は高級なのか安物なのかは定かではないけれど、ちょっとの早足くらいなら足音を消してくれるので、こんなふうに夜になってから遊びに行くときは大助かりだ。  ノックするとすぐに、待ってましたと言わんばかりにドアが開いた。おそらくドアの前で待ちかまえていたのだろう、ぶつかりそうになる。純一は思わず息を飲んで、迎え出てきたケリーを見やる。 「遅かったぞ」 「なに言ってんだよ。急いで飛んできたじゃないか。……入れてくれないの?」  ちらり、とほんの少し上目使い気味に、純一はケリーを見ながら言い、ケリーが一瞬ひるんだ隙を見て軽く笑いながらするんとケリーの脇をすり抜けた。 「だいたいさぁ、ケリーのわがままがいけないんだよね。別に今やんなくても、明日、丸一日使ってしよう、って言ってたんだしね。サーシャにだって僕にだって、今日には今日の都合ってもんが……聞いてる?」  純一はカバンの中身を出しながら、ぶつぶつとぼやいて見せる。アレクサンドルはそうだそうだと頷いて見せながら引き出しからチョコレートを出した。 「純一、これやる」  純一は椅子に座りながらそれを受け取った。 「ラッキー、これ好きなんだ」 「また絵描いてたんだろ?」 「そう。よく判るね。もう一息ってとこだったんだよ」  そう言って、純一はケリーにちらりと視線を流して見せた。 「なんだよ、俺ばっかり悪者にしやがって。約束がちょこっと早くなっただけじゃねーか。そんなに文句言うなよな」 「サーシャからチョコももらったことだし許そうか」 「なんだよ二人ともかっこばっかつけやがってさ。ちゃんちゃらおかしいや」 「それは誤解ってやつだな」 「そうそう、サーシャの言うとおりだよ。ひがんでんじゃないよ。あれ、お茶がないね。入れてくる。先に話始めてて。サーシャ、カップ借りるね」  純一はそう言って席を立つと給湯器に向かう。ケリーはすねたような顔で椅子に座りなおした。後ろから、 「サーシャ、またお茶の葉っぱがないよ」 と純一ののんびりした声が聞こえてくる。 「ごめん、今朝で終わっちゃったんだ」  こちらものんびりした声なので、非常に面白くないケリーは、おもむろにプログラムの覚え書き用のノートを広げて大声で、 「純一がせっかくそう言ってくれてるんだから早くやろう。俺のやりたいこと、っていうのは簡単にだけどもうプログラム組んであるんだ。サーシャはやってある?」 「やってあるよ。それより先にケリーのやつを見せてくれよ。きっと僕のはそのおまけみたいなもんだから」  そう言いながら、アレクサンドルは自分のマシンを立ち上げた。  日本茶も紅茶もコーヒーも切れているので、仕方なくというか、またかという顔をして、純一は戻ってくると自分のカバンから紅茶の缶を取り出した。 「ねぇ、僕これ飲むけど二人ともこれでいい?」 ***  無意識界の意識。それは普段意識されていないが、強度の不安などが訪れた時に頭をもたげる。それは、ある時は『明日』という存在そのものへの疑問であり、自分自身の位置付けの不安である。  自己の混沌とした世界、それは今、見ることも感じることもない世界だと思っていても、ふとした時に、無意識界の意識の影として感じ、それが特に、不安である時に感じるので、強調効果を持って、理解できない本能的な怖れを多少なりとも伴ってくる……。  ジェルは、考えていることを整理しようとして文章にして書き出してみたものの、そういうことを考えること、それ自体に、疲れと飽きを感じ始めていた。  どうしてこんな、考えても仕方のないことをぐだぐだと考えているのだろう。なにも自分が哲学者である訳でも、文学青年である訳でもない。一言で言えば先の文章、あの『価値の絶対の不在』の文章に、少々『はまってしまった』ということだけだ。  そう、ジェルはクレアを理解したいのだ。彼女の内包する世界と危機感、そして希望。たとえ理解できなくても、少しでも彼女自身に近づきたい。  けれど、こういう命題は、考えれば考える程不透明さを増して、疲れをいやが上にも増していく。だから時間が経つと共に疲れ、飽きてくる。段々、そういった関係の単語のいくつかが、勝手に頭の中を闊歩しはじめる。本当に、いい加減に嫌になってくる。けれども一度『はまって』しまうと、しばらくはそれが頭について、離れてくれないというのは本当なのだ。そして、『なんとなく憂鬱』な状態が、ある種の煮詰まりをもちはじめる。この感覚から浮上するには、その混沌の中の中心を闊歩する単語が、不意に、ひょっこりと光を運んでくるのを待つしかないのだ。  といった考えにも、ジェルは本当に飽きてきたので、そろそろ朝の時間になるのをいいことにして、カールの部屋に押しかけることにした。  廊下を歩いていると、クレアが部屋から出てくるのが目に入った。 「おはよう。早いね」 「おはよう。目、覚めちゃった。今さら寝なおすには時間がないしね」  クレアの目には確かな正気があったので、ジェルは一安心した。 「そりゃそうだ。よく眠れたかい」 「お陰様で。なんだか寝過ぎちゃって頭がボケそうよ」 「そりゃいいや。一回見たいな、クレアの寝ぼけたとこ」  とジェルが笑ってみせるのに、 「いじめっこ」 とクレアは少しすねてみせる。 「私、今からコーヒーいれに行くんだけど、飲む?」 「お、いいね。ごちそうになろうかな」  コーヒーをすするジェルを、クレアが興味深そうに見つめている。気がついたジェルがクレアと目を合わせようとするとすぐに他を見るくせに、気がつくとまたジェルを見ている。ジェルは顔に手をやって言った。 「なに? さっきからずっと見てるだろ。なにか付いてる?」 「え、あぁ、ごめんなさい。なにも付いてない。ねぇ、ジェル、なにかあった?」 「どうした、急に」 「そんな気がするだけ」 「クレアの言うことって、時々さっぱり判んないなぁ。でも良かった、元気になったみたいだ」  ジェルが困ったように小さく笑いながら言うと、クレアはにこにこと、嬉しそうな表情でうなずいている。 「なにかね、堂々めぐりの問題で煮詰まってない?」 「どうしてそう思うの」 「そんな気がするの。違うの?」  二年前以前、つまりウィルが亡くなる前の光が戻ってきたかと思えばすぐこれだ。  この分なら、もう半分くらいは感覚が戻ってきているに違いない。ジェルはいきなり突っ込まれて、驚きながらも喜びながらそう考えた。ジェルがのらくらと逃げるのをどう見たのか、クレアは優しい目で小さく笑うと、確かめるようにこんな言葉を提示した。  Tomorrow is just another day.  明日のことは誰にも判らない。それでもやってくる。すべてが予想外。聖書にも、神話にも書かれていないもの。  ジェルは体が軽くなるのを感じた。そして驚いた目でクレアを見ると、彼女は照れた。 「最近またね、この言葉が好きになってきたの」  そう言って微笑む顔が、ジェルの心を軽くする。 「クレア」  自分が自然と優しい顔になっているのをジェルは感じる。 「アテラの住宅事情、知ってる?」
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