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8
静香は焦っていた。
老婆に何度も繰り返し迫る。
――私の娘が殺されちゃうの。あいつはまた戻ってきたのよ。
老婆は無表情だった。心の中では滑稽だと思っているのかもしれない。
どうしてこんな辺鄙な村に来たのかずっと謎だった。
それが今更になって分かったところで、もう成す術がない。
また、流れゆく運命に身を任せて、受け入れるしかない。
あの赤い軽自動車。
あの目つき。
彼はまたここに戻ってくるだろう。
彼の未練は親子を殺害することだ。
それだけで震えが止まらなかった。
静香は静香になる前のあの日、ある少年に電話をかけていた。
彼の殺意が自分だけではなく、娘にも向いていることに気がついたからだ。
少年には話半ばで電話を切られた。
そのあと、どうなったのかは知らない。
けれども、彼もまた彼ではなくなっていたのだから、少年が防いでくれたのかもしれない。
遠くの方から車のエンジン音が聞こえた。
静香は力強く願った。
――どうか、また。
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