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教室に戻り、教科書を出そうと机の中に手を入れて、零れそうになった息を飲み込んだ。
机の中は空っぽだった。
仕方なく席を立ち、にやにやと嫌な笑みを浮かべながらこちらを伺う女子グループに近付いた。
「あの、私の教科書知らない……?」
「あー、あれいるやつだったの?汚かったからゴミだと思って捨てちゃった。ごめんね?」
1人が演技がかった口調で言うと、他の子達が声を上げて笑い出す。
口の中に滲む唾を飲み込み、教えてくれてありがとう、と形だけの礼を言って教室を出た。
こんなのはいつもの事だから、もう慣れた。
いちいち反応するだけ無駄。彼女達を喜ばせるだけだ。
だから息を潜めて、嵐が過ぎ去るのを待つ。
そうしていつも、耐えてきた。
校舎を離れてグラウンドの隅にある小屋へと向かった。
中にはビニール袋に包まれた大量のゴミがおいてあり、学校中のゴミはここに集められる。
錠を外して扉を開けると、1番手前の袋に数冊の教科書が入っているのを見つけた。
ビニール袋の結び目を解き、教科書を取り出す。
その瞬間、背中に強い衝撃を覚えた。
突然の攻撃にバランスを崩し、ゴミ袋の上に倒れ込む。慌てて起き上がろうとしたけれど、それより先に視界は真っ暗になった。
背後で扉が閉まり、カシャンと錠をかける音が響く。
「ちょっ……!」
扉を強く引っ張ってみたが、案の定扉は開かなかった。
外では聞きなれた声が甲高い声で笑い合う。
「開けて!ねぇ、お願い……!」
必死の懇願も虚しく、笑い声は遠ざかっていった。
暗闇の中扉を叩いて助けを呼んだけど、ここは校舎から離れている。誰も来てくれないことはほぼ確実だった。
早くここから出なきゃ。吉岡先生の授業が始まってしまう。
引っ掛けてあるだけの簡単な錠。何かの拍子に外れてくれないだろうかと、淡い期待を抱いて扉を揺らしたり叩いたりしてみても、やっぱり扉が開くことはなくて。
いつものこと、いつものこと、と繰り返す心が、久々にぎゅう、と苦しくなった。
先生に振られたことで、心が弱くなっているのかもしれない。
一寸の光も見えない中、頬を涙が流れていくのを感じた。
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