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どれくらい時間が過ぎたんだろう。
途中まで数えていたチャイムの音は、もう何回鳴ったか分からない。
相変わらず辺りは真っ暗。
どうにか扉を開けようと色々試したけど、どれも上手くはいかなかった。
頭がぼんやりとして、もう立っているのか座っているのかも、どっちを向いているのかも分からなくなってくる。
もうこのまま一生、扉は開かないんじゃないか。
みんな私がいたことすら忘れてしまうんじゃないか。
そんなことさえ考え始めた頃、目の前に1本の白い線が現れた。
その線が外の光だと気づいたのは、扉が半分ほど開いてからのことだった。
扉の前に立っていた用務員のおじさんは、両手にゴミ袋をぶら下げたまま驚いた顔でこちらを見ていた。
まさか中に人がいるなんて思いもしなかったんだろう。
ゴミ倉庫の中から這い出ると、ようやく我に返ったおじさんがゴミ袋を放り出して駆け寄ってくる。
「君、大丈夫か?誰かにやられたんか」
「……大丈夫です」
急に明るい所に出たからか、目の前がチカチカと点滅しているように見える。
何とか立ち上がり、教科書を抱えて倉庫を離れた。
辺りは薄暗くなり始めている。校舎の時計は4時を回っていた。
もう授業は終わっている時間。
すぐにでも帰りたかったけれど、教室に鞄を置いてきてしまったことを思い出して教室に向かう。
昇降口に入った所で吉岡先生が階段を降りてくるのを見つけた。
それだけで、心が軽くなる。
大丈夫か。またいじめられたのか。俺は味方だから。
いつもそう言って、優しく話を聴いてくれる。
だから、何をされても平気でいられた。
目が合うと、先生はすぐにこちらへ近付いてくる。
暖かい言葉が降ってくるのを待っていたのに、彼の口から吐き出されたのは色も温度もない氷のような言葉だった。
「授業をサボって今まで何をしていた」
「っ、違……私、閉じ込められてたんです!教科書を捨てられて、ゴミ置き場に行ったら背中を押されて、」
「言い訳はいい」
鋭い声がピシャンと私の言葉を弾く。
完全に悪者を見る目をしていた。
はぁ、と呆れたような溜め息が零れる。
「なぁ、寺崎。受験が大変なのは知っている。全て投げ出したくなる気持ちも分かる。
けど、それは今じゃないだろう」
違う。違うのに。
言い訳じゃないのに。
「今ある立場をしっかり考えろ」
口を挟む余裕さえ与えてくれず、彼はさっさと立ち去ってしまった。
胸がぎゅう、となる。
先生を怒らせてしまった。
いつも話を聞いてくれる先生がいたから、頑張れたのに。
味方が一人もいなくなってしまったら、私はどうやってこの学校で生きていけばいいんだろう。
寄りかかっていい背中が無くなってしまったことで、不安に押し潰されそうになる。
今こうしている間も、どこからか誰かが私を見て笑っているような気がして、恐怖から逃げたくて、校舎を飛び出していた。
怖い。怖い。
もうこの学校に私の居場所はない。
逃げようにも、どこに逃げればいいのかも分からない。
家に帰り、玄関に靴を脱ぎ捨てて部屋に逃げ込んだ。
お父さんが何か叫んでいたけど、それも聞く余裕はなかった。
ベッドに潜り込み、自分を抱きしめるように小さく丸まった。
この苦しみから、恐怖から逃げるには、どこに行けばいいんだろう。
ここじゃないどこかに行きたい。
いっそ、いっそ。
この世界から、いなくなれたらいいのに。
***
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