プロローグ

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*** 空をゆっくりと流れていく太陽が、海の向こう側に沈んでいく時間。 あたしは港の跡地に立って、オレンジの海を見るのが好きだった。 ああ、また今日が終わるこの時間、あたしは生きてる。 その安心感と解放感が、心を軽くしてくれるんだ。 今日も海を眺めて一人の時間に浸っていると、ブーツに何かが当たる小さな衝撃を感じた。 視線を落とした先には熟れた姫リンゴが転がっている。 手の中に収まる果実を拾って辺りを見回したら、少し離れた場所に(うずくま)って荷物を拾い集める女がいた。 買い物帰りだろうか。持っていた袋の取手が切れてしまったらしい。 女の方へ足を向け、姫リンゴを差し出す。この時言葉は交わさない。 それがこの国のルールだ。 しかし女は顔を上げて、リンゴを受け取りながら笑みを浮かべた。 「ありがとう。助かったよ」 「……あたしと話すと殺されるぞ」 「いいんだよ。兵士達ならさっき女王様のお守りに帰って行ったから」 女の言う通り、昼間には腐るほどいた王国軍の姿が今は1人も見当たらない。 それならと思ってその場に腰を落とし、荷物を拾うのを手伝うことにした。 他の国を見た事はないから比べることは出来ないけど、この国のルールはたぶん、かなり厳しい方だと思う。 ルールは日に日に増えていくからもういくつあるかも分からないが、大きく分ければ禁止されているものは4つ。 武器の所持、娯楽、勉強、そして革命軍(王国軍の敵)との接触。 ルールを破った者は、王国軍によって処刑される。 あたしはその革命軍と呼ばれる集団の中にいる。 とは言っても、弱い国民達が希望を込めてあたしらをそう呼ぶだけで、実際はルールに縛られたくなくて好き勝手に生きてる、ただの無法者集団だ。 この国の頂点に君臨する女王は、あたし達を殺すことに躍起になっている。 それが、日毎ルールが増えていく理由であり、この国で戦争が終わらない理由でもあった。
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