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空をゆっくりと流れていく太陽が、海の向こう側に沈んでいく時間。
あたしは港の跡地に立って、オレンジの海を見るのが好きだった。
ああ、また今日が終わるこの時間、あたしは生きてる。
その安心感と解放感が、心を軽くしてくれるんだ。
今日も海を眺めて一人の時間に浸っていると、ブーツに何かが当たる小さな衝撃を感じた。
視線を落とした先には熟れた姫リンゴが転がっている。
手の中に収まる果実を拾って辺りを見回したら、少し離れた場所に蹲って荷物を拾い集める女がいた。
買い物帰りだろうか。持っていた袋の取手が切れてしまったらしい。
女の方へ足を向け、姫リンゴを差し出す。この時言葉は交わさない。
それがこの国のルールだ。
しかし女は顔を上げて、リンゴを受け取りながら笑みを浮かべた。
「ありがとう。助かったよ」
「……あたしと話すと殺されるぞ」
「いいんだよ。兵士達ならさっき女王様のお守りに帰って行ったから」
女の言う通り、昼間には腐るほどいた王国軍の姿が今は1人も見当たらない。
それならと思ってその場に腰を落とし、荷物を拾うのを手伝うことにした。
他の国を見た事はないから比べることは出来ないけど、この国のルールはたぶん、かなり厳しい方だと思う。
ルールは日に日に増えていくからもういくつあるかも分からないが、大きく分ければ禁止されているものは4つ。
武器の所持、娯楽、勉強、そして革命軍との接触。
ルールを破った者は、王国軍によって処刑される。
あたしはその革命軍と呼ばれる集団の中にいる。
とは言っても、弱い国民達が希望を込めてあたしらをそう呼ぶだけで、実際はルールに縛られたくなくて好き勝手に生きてる、ただの無法者集団だ。
この国の頂点に君臨する女王は、あたし達を殺すことに躍起になっている。
それが、日毎ルールが増えていく理由であり、この国で戦争が終わらない理由でもあった。
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