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そんな彼女の姿を見て、僕はすべてを悟った。
なぜ、彼女がこんな奇抜な行動をとっているのかを……。
なぜ、彼女があえて裂けた口を見せ、あんな質問を投げかけてきたのかを……。
彼女も僕と同じなのだ。きっと、その他人とは違う容姿にコンプレックスを抱き、ずっと悩み、ずっと苦しんで毎日を生きてきたのだろう。
その悲しみを隠し、その傷ついた心を偽り、自分で自分を騙すために、こんな恐ろしい都市伝説の殺人鬼みたいなフリをして回っているのである。
立場や行動は違えど、彼女も僕と一緒なのだ……。
図らずも自分と同じような境遇であることを知った僕は、なんだかとても彼女のことが愛おしいように思えてきた。
それは美しい容姿からだけではない……悲しみをそのマスクに隠して生きる彼女の健気さに触れ、本当に僕は彼女に恋をしてしまったのかもしれない。
「あ、あの……よかったら僕と、これから散歩にでも行きませんか?」
気がつくと、僕はそんな誘いの言葉を彼女に投げかけていた。
口に出してからそれに気づき、僕は再び強烈な恥ずかしさに襲われる。
「…ちょ、な、なに怖がりもしないでナンパなんかしてんのよ! バッカじゃないの!」
「ご、ごめん! 別にナンパするつもりじゃなかったんだけど、なんていうかその……なんだか君と散歩したら楽しいかなあって思って…」
さらにはまたカーっと顔を真っ赤にする彼女に罵られ、もう穴があったら入りたい。
確かにこれでは、ただのチャラいナンパ野郎である。
「で、でも、そこまで言うんなら仕方ないわね。人脅かすのもいい加減飽きたし、今夜は特別に付き合ってあげても別にいいわよ?」
だが、その結果的にしてしまったナンパも速攻撃沈かと思いきや、赤い顔のままそっぽを向いた彼女は、どこかモジモジした様子で予想外にもその誘いをOKしてくれる。
「……え、それって、ひょっとしてOKってこと?」
「そんなこと何度も言わすんじゃないわよ! このわたしとデートできる男なんて滅多にいないんだからね! ありがたく思いなさい!」
念のため確認をとる僕に、彼女はさらに顔を真っ赤にして声を荒げると、何を怒っているのか、ツンツンとした態度でさっさと先に歩き出してしまう。
「あ、ちょっと待ってよ!」
早足に先を行く彼女の背中を追い、僕も慌てて再び歩き始める。
こうして、ずっと引きこもっていた僕は外に足を踏み出したばかりでなく、薄闇に包まれた夕暮れの街で生まれて初めて女性とデートをすることとなった。
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