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「ーーへえ、じゃあ君もこども達から怖がられてるんだ。僕と一緒だね」
「ま、こんな顔だからね。仕方ないわよ。しかも、付けられたあだ名が〝口裂け女〟よ? まんまじゃない。なにそのネーミングセンス! もっとこう隠喩表現とか捻りを利かすとかないわけ?」
そんな取るに足らないお互いの話を交わしながら、僕らは楽しく散歩を続けた。
無論、人気のない閑静な高級住宅街とか、もう誰もいなくなった小さな団地の公園とか、あまり人目につかない所を選んでである。
僕も同じだからよくわかるが、きっと彼女も人の目に触れるような場所は嫌だろうと思ったからである。
「ーーあの大きな四角がペガサス座で、その斜め上のマッチで作った人っぽいのがアンドロメダ座だね」
彼女と歩いている内にもうすっかりと日も沈み、濃い紫色をした夜空には明るい星々が瞬き始めている。
引きこもりで、世間知らずの僕に女性の気を引く話術など備わっているわけもなく、すでに話題に窮してしまっていたので渡りに船である。
「あなた、星座に詳しいのね。じつは意外とインテリだったり?」
星空を指差し、僕が星座について話をすると、彼女は感心したように僕の方を見つめ、大きく口の開いたその顔に微笑みを湛えてくれる。
「いやあ、知り合いというか、住んでるとこの家主みたいな人が理科の先生でね、それでよく話しているのを聞いたりするんだよ。別に僕はインテリなんかじゃないよお…おっと……」
僕は照れ笑いを浮かべながら頭を掻いてみせるが、その時、雲間から明るい十五夜に近い月が姿を現し、慌ててフードの端を引っ張ると顔が照らされないようかぶり直した。
「……ねえ、そういえば、ずっとよく顔が見えないんだけど、そのフード取って見せてくれない?」
すると、そんな僕の動作に目を留めた彼女が、どこか訝しがる様子でそう尋ねてきた。
「え……?」
その予期せぬ注文に、僕は一瞬、躊躇してしまう。
僕の顔を見て、彼女は僕を拒絶したりしないだろうか?
そんな不安と恐怖が、僕の脳裏を過ったのである。
……いや、彼女も僕と同じように自身の容姿にコンプレックスを抱いてこの世界を生きている……そうした世間の冷たい目に晒される者の気持ちをよく理解している彼女ならば、けしてそんなひどい反応を示すことなどないはずだ。
それに、僕のフードは彼女にとってのマスクと同じだ。彼女はマスクをとって素顔を見せてくれたというのに、僕だけフードをかぶったままというのはフェアじゃないし、彼女に対して失礼だろう。
「うん。わかったよ……」
僕も勇気を振り絞り、彼女に素顔を見せる決心を固めた。
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