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ちょうどここから数歩先に、街灯が一つ立っている……。
僕はそこまで歩いてゆくと、まるでスポットライトのように頭上から照らされる黄白色の光の中、くるりと彼女の方を振り返った。
「でも、ぜったいに驚いたりしないって約束してくれる?」
それでも、やっぱりちょっと心配になって、僕は弱気にも確認をとる。
「当たり前でしょ。わたしを誰だと思ってるの? 口裂け女よ? わたしなんか耳まで口裂けてんのよ? ちっとやそっとのことで驚いたりなんかするわけないじゃない」
そんな劣等感に縛られたままの僕に、彼女は優しげな笑顔を浮かべると、うれしくも自虐ネタを混じえながらそう言ってくれる。
「ありがとう……それじゃ、とるよ? これが、僕の本当の姿さ……」
僕はその言葉をとてもうれしく思い、彼女のその真摯な態度に応えるべく、明るい街灯の下でフードを取りさると、続けてロングコートの前も開いて見せた。
街灯の明かりに照らし出され、前髪パッツンの童顔気味な僕の顔が彼女のつぶらな瞳に映る……。
だが、人間らしい薄桃色の肌があるのはその顔の半分だけだ。鼻の中心線を境にしてちょっきりもう半分は、皮下の赤い筋肉の筋がすっかり露わになっている。
また、コートの中に見える裸体もちょうど真半分は皮下組織が露わとなり、さらに胴体部分は肋骨や内臓までもがよく見えるようポッカリと肉に穴が開いている。
「あ、あなたは……」
「ああ、そうさ。僕は人体模型なんだ」
真実の僕を映す両の瞳を大きく見開き、譫言のように呟く彼女に僕は正体を告白した。
そう……僕は小学校の理科準備室にある教材の人体模型なのだ。
ただし、ただの人体模型ではなく、ま、いわゆる〝学校の怪談〟というやつで、日が暮れれば学校内を自由に歩き回ることができたりするのだが……。
それでも、今まで一度も校舎から足を踏み出したことはなく、今日は生まれて初めて屋外に…しかも、学校を離れてこんな所にまで遠出して来てしまったのだった。
しかし、今日、自分でも信じられないような、こんな思い切った行動をとってしまったことを僕は後悔するどころか、本当によかったと思っている。
ずっと想像するだけだった、こんなにも素晴らしい外の世界を知り得たばかりでなく、彼女という運命の女性にも出会うことができたのだから。
ああ、そうなのだ……僕はこの出会いを運命だと確信している。
彼女は、こんな他人と異なる容姿の僕を世界で唯一受け入れてくれる、同じ苦悩と悲しみを抱いて生きる運命の女なのだと……。
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