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「え…遼?」
司は何故、今自分が遼に抱きしめられているのか理解できない様子だった。
そんな司に構わず、遼は口を開いた。
「俺があんたと付き合いたくないわけがないだろ! あんたが男でも関係ない。俺はあんたが好きなんだ!」
穏やかな早朝の街の空気に似合わぬ大声で遼は言った。ここは住宅地ではないし今はこの場所は人気もないのでほとんどの人間には遼の声は聞かれていないだろう。しかし、遼にはそのようなことを気にしている余裕などなかった。
「だからそんな理由で別れるなんて言わないでくれ。」
そして、今度は怒りの他に哀しみを含んだ声で言うと、さらに司の身体を力強く抱きしめた。
すると、そんな遼の顔を司は見上げた。
「…ありがとう。君は僕を受け入れてくれるんだね。」
司も少し泣きそうな声で言った。瞳を細めて。
「当たり前だろ。てか、どうして今まで教えてくれなかったんだ?」
「それは…言ったら幻滅されるからに決まってるから。」
「俺はそんなことしないのに…。」
そんな会話をする二人の身体を、師走の冷たい風が撫でる。
「ねぇ、遼。」
司は遼の胸元に顔をうずめて彼の名を呼んだ。
「何だ?」
「前言撤回させて。やっぱり別れないでこれからも一緒にいてほしい。」
司が弱々しい声で言うと、遼は司のそのライトブラウンの髪を優しく撫でる。彼の不安を和らげるように。
「わかった。なぁ、このまましばらくあんたを抱きしめていてもいいか? 今はあんたのことを離したくないんだ。」
「いいよ。抱きしめて。ああ…君の腕は温かいな。」
司は遼の首に腕を回した。遼は司の身体を抱きしめる力を強める。
早朝の人気のないこの川沿いの道で、二人は互いのぬくもりを感じていた。もうすぐこの街に雪が舞う頃だ。
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