夜想曲

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普段は塾で遅くなり迎えもない日は出来るだけ人通りが多く明るい道を選んで帰っていたのに、この路地裏はいつも通る道よりかなり薄暗い。 大通りへと戻り、いつもの曲がり角から帰ろうと一度踵を返すもまた酔った中年に声を掛けられ逃げ出さないといけないかもしれない。 やりたい事すら見つけられず、退屈するだけの毎日。通りを一つ間違えただけなのだから、ここを進んでも程なくいつもの帰り道に辿り着くだろう。 これぐらいの冒険なら許される筈だ。わたしはそう自分に言い聞かせ、路地裏の奥に身体を向け直し一歩踏み出す。 たかがこれぐらいの事に心臓が高鳴った。ゆっくりと慎重に踏み出した足は何かに追われている訳でもないのに次第に速くなる。まるで別の世界に迷い込んだような高揚感に寒さを感じていた身体は僅かに汗ばみはじめた。 .
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