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自分の意思に反して早足になる歩調に少しずつ息が上がる。薄暗かった路地裏は所々に連なるビルの裏口だろう扉の上に設置された慰み程度の蛍光灯で照らされ、視線の先には広がる闇。
ただ、路地裏を一本曲がり間違えただけの日常と非日常。高鳴る不安と期待。後どれぐらいで見知った道に出るだろう。
見知った道に出た瞬間、わたしはどんな気持ちになるだろう。そんな事を思いながら歩は進む。まだ一分程の時間の中で、喧騒から抜け出した感覚に酔いしれていた。
そんなわたしの意識を現実に戻すように、視界の先に人影が見えた。期待で高鳴っていた心臓は一気に縮み上がり心の中に恐怖が立ち込める。
まるでホラー映画のワンシーンのようだと頭を過ぎれば、早足だった足が止まり視線は人影に囚われ立ち竦んだ。怖い、後悔ばかりが湧き上がり数分前のわたしを恨めしく思う。
恐怖に竦み動けなくなったわたしに人影が砂利を踏みしめる音と共に一歩、また一歩、と近づいてくる。
その人影が薄暗い光を放つ蛍光灯の下で止まった。薄暗いながらも、蛍光灯は人の姿を映し出した。
「…夜行くん…。」
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