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見知った姿に思わず相手の名を呼ぶ。人影の正体は"夜行渉"。高校のクラスメイトだった。まさか、こんな所でクラスメイトに出会うとは思いもせず、恐怖に竦み上がっていた思考は一瞬で停止してしまう。
緊張と不安で強ばっていた身体から一気に力が抜ける。はぁ、っと大きく息を吐いて落ち着きを取り戻す。整った顔立ちと物静かな性格に彼を気にしている女子は少なくない。話した事はないが、不安で潰れそうになっていた所に知った顔が見えればそれだけで心は安らいだ。
しかし、それもつかの間。彼が一歩踏み出して身体全体が蛍光灯に照らされれば、和んだ空気は一瞬で凍りついた。
彼の腕の中に抱かれた黒い塊。それが何かを理解するまで暫くの沈黙。黒いふわふわの毛は所々赤黒く滑りのある液体でべったりと汚れている。
「…や、夜行…くん…。それ…。」
緊張で喉が張り付いて上手に声が出ない。掠れた声を捻り出しながら、彼の腕の中に抱かれた物体を指差す。
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