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彼の腕の中で身動きすらしないソレ。黒いふわふわの小さな耳に彼の腕から零れ落ちるように垂れ下がった黒い尻尾。丸まった背はまだ小さい。
ソレは黒い子猫だった。
しかし、その姿は歪な物で前足と後ろ足がある場所からは赤黒い肉片と赤く染まった骨の一部が覗くだけ。
そこから垂れ流れた血は彼の制服を容赦なく汚しているが、彼にそれを気にとめた様子はない。
彼はわたしが見えていないように腕の中の子猫だった物を優しく撫で、その小さな額に慈しむように唇を寄せた。
まるで神聖な儀式のようなその仕草に目を奪われるものの恐怖が和らぐ事はなく、ただ動けず立ち尽くした。
その瞬間。
カタンッと後ろで音がして、わたしは驚きで身体を震わせ硬直していた身体は反射的に音の方へと向ける事が出来た。
視線の先にはゴミバケツの蓋がコロコロと転がり地面に倒れるのが見えた。その奥には灰色の薄汚れた猫。ゴミ箱を漁って蓋を落としてしまったのだろう。
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