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――その日、2人(?)は出会った――
一方は小学校低学年くらいの少女、もう一方は白くてふわふわした、長い耳を持つ謎の生物。
謎の生物は、大体少女の膝くらいのサイズである。
そんな2人(?)が、道端で向き合って、話し合っていた。
「やあ! そこの可愛いカノジョ! 僕と契約して魔法少女になってよ!」
「うん! いいよ!」
「突然こんな事を言われて戸惑うのは分かるけど……って、即答!?」
「うん! 魔法少女ってなんだか楽しそうね!」
目の前の少女はとても楽しそうな表情を浮かべている。
こうして、この世界に1人、また新たな魔法少女が生まれた――
「念のためもう1度聞くけど、本当に魔法少女になってくれるんだね?」
「うん、いいよ!」
魔法少女がどういうものなのか説明すら聞かずに、一切のためらいもなく即答する。
「僕が言うのもなんだけど、キミの将来がとっても不安だよ……」
「自分で言うのもなんだけど、私、面白い事には積極的に挑戦するタイプなの!」
何にでも挑戦しすぎて大変な目に会わなければいいけど……。でもそれは僕には関係ないか。
「そう言えば自己紹介してなかったよね? 私は菜々香。あなたは?」
「僕に名前は無いんだけど、とりあえずキューノと呼んでもらえるかな?」
「分かった、キューノ君ね! よろしく!」
「一応説明するけど、キミには魔法少女の適正がある。これは世界中でもごく限られた少女にしか……」
「そういうのいいから、変身とか出来ないの?」
目の前の少女は目を宝石のように輝かせて聞いてきた。
「うーん、それは、実際に試してみた方が早いかな? ちょうど魔物が現れたようだ」
軽く走って5分ほどの場所。
僕たちは出現した魔物を物陰から見ている。
「ウケケケケケ! 全ての生き物は俺様の餌になれー!」
そこでは、無数の触手を携えた生物が、逃げ惑う人々を襲っていた。
「魔物だ! アレを倒すのが魔法少女の使命だよ!」
「うん、分かった! 倒せばいいんだね!」
「アレを倒さないと、世界中の人々が襲われ「変身、魔法少女!」……人の話、全く聞いてないね。まあやる気なのはいい事だけど」
ぴろぴろきらり~ん☆と変身完了。その間0.3秒。
「わあすごい、本当に変身できちゃった」
ピンクと白を基調とした衣装は、いたるところにフリルがしつらえらえれており、菜々香の可愛らしさをさらに引き上げている。
「さすが菜々香、まだ何も教えてないのに、早速変身したね!」
これはもう、僕の存在意義は無いのではないだろうか。
「違うよキューノ君。私は『魔法少女ナナカ』。これまでの菜々香とは違うんだから!」
「そういうところ、こだわるのね……」
少しばかり(?)不思議な少女ではあるものの、魔法の才能は間違いない。これならば、初陣でも期待できるかもしれない。
ナナカは物陰から身を翻して魔物の正面に立ち、目の前にステッキを構えて戦闘態勢を取る。
「もう、勝手に街を壊しちゃいけませんって学校で習わなかったの?」
「生憎、俺様は学校なんてものに行ったことがないのでな!」
「そんな……。学校にも行けないなんて、きっと何か深い事情があったのね、ごめんなさい」
「やめろ、哀れむような目でこっちを見るんじゃない! 魔物に学校など必要無いんだ!」
「そうなの、魔物というのはとても貧しい生活を強いられているのね」
「別に貧困のせいで学校に通えない訳でもなーい!」
「もう、聞き分けのない子は嫌いよ! 義務教育からやり直しなさーい!」
「だから魔物に義務教育なんてものは存在しねーんだよ! 死ね!」
ナナカの周囲から無数の触手が迫り来る。経験の浅いナナカにこの攻撃はかわせないだろうと思った瞬間、ナナカは触手に捕らえられてしまった。
「好き勝手言ってくれた割にはあっさりと捕まってるじゃねえか。さて、この後どうしてくれようか!」
「もう、女の子には優しくしなさいって教わらなかったのかな?」
「俺様の触手は同じ太さの鋼鉄より硬え! テメーみてーな少女じゃ脱出なんて不可能だ……(ブチブチッ)」
そのまま、拘束された触手を素手で(!)ブチブチと引きちぎっていく。
「仕方ないなぁ……。どうしても私の話を聞いてくれないなら、きっちりとお話(物理)してあげないとねっ☆(ブチブチッ)」
そう言って触手の拘束を解き、地面へと降り立つナナカ。その表情には満面の笑みが浮かんでいた。
「待て、話せばわかる、もう暴れたりしない、だからもう1度きちんと話をしようじゃないか!」
「だからー、きちんとお話(物理)をするって……言ってるでしょ?」
これは怖い。満面の笑みなのが更に怖い。見ている僕ですらトラウマになりそうなレベルだ。
ちょっぴり、魔物の事が哀れに思えてきた。
「だ、だが、魔法のステッキはこちらにある。ステッキすら無い魔法少女に一体何が出来ると言うのか!」
そういう魔物の触手には、いつの間にかナナカから奪ったステッキが握られていた。
「お話(物理)するだけなら別にステッキなんて必要ないもん! ……喰らえ、魔法ぱーんち(物理)!」
瞬間、ただ腕を振るっただけの、お粗末なパンチが放たれた。お世辞にも威力があるとは思えないような、パンチとも言えないようなシロモノではあったが……。
触手生物に触れた瞬間、その下半分が光に包まれ、綺麗に消滅していた。
おそらく、触手生物は何が起こったのか理解出来なかっただろう。ずっと外から見ていた僕ですら何が起こったのか理解出来なかったのだから。
――とにかく、目の前にいた触手生物は、その下半分を消滅させ、そのまま上半分が重力に従って自由落下し、グチャリ、と気持ち悪い音を立てながら地面に横たわった。
「もう、悪い子は魔法(物理)でお話(物理)して改心(物理)させちゃうんだからねっ!」
魔法とはなんだったのか……。その点について追及すると、自分も改心(物理)させられそうなので、今は黙っていた方が身のためだろう。色々とわけがわからないよ。
ナナカは残った上半分もパンチで消滅させ、奪われたステッキを取り戻していた。
「これでひとまず目的は達成だよね?」
ナナカがこちらに振り向いた時だった。
ズドッゴーン!
突如、ナナカのいる周辺の地面が轟音を上げながら弾け飛んだ。
ナナカは……。どうやら跳躍して回避に成功していたようだった。
「ナナカ、気を付けて! 敵性魔法少女だ!」
「へえ。あの攻撃をかわすんだ。思ったよりやるのね」
大体中学生くらいの魔法少女が、こちらにステッキを向けて立っていた。
その少女は黒を基調としたコスチュームに身を包んでいる。
「私は魔法少女ハルカ。私の可愛い魔物を倒してしまうなんて、少しお仕置きしなくてはいけないわね」
「どんなに可愛くても、人に迷惑をかけるものはちょっとどうかと思うな!」
いや、アレを可愛いと言い切る美的センスは僕にはちょっとわけがわからないかな……。
魔法少女適性の高い子は少し変わった子が多いのかな?
「黙りなさい! これはやられた魔物の恨み!」
そう言ってハルカが再び魔法弾を放つ。
ナナカが大きく飛び退ってそれを回避する。
まだ魔法少女になって経験が浅いというのに、魔法少女を相手にするのはあまりにも分が悪い。
ナナカはまだ魔法を上手く扱えないので、どうにか接近戦に持ち込もうとするが、ハルカがそれを許さない。
この状況では、今回ばかりはおとなしく撤退すべきだろう。
「あれは魔法少女に敵対する魔法少女、まともに相手をするだけ無駄だよ!」
「きちんと話し合い(物理)をすればきっと分かってくれるはずだよ!」
話し合いに前向きなのはいい事だけど、その話し合いは本当に話し合いなのかな?
「とにかく、今は1度撤退するんだ!」
「そしてこれは愛する魔物を失った私の恨み!」
ハルカは更に魔法弾を放ち続ける。
1発、2発、3発……とナナカは大きく跳躍することでそれらを回避していく。
やはり、まともに魔法を使えない以上、このままではナナカが圧倒的に不利だ。
「うーん、このまま逃げててもラチが明かないよね」
今まで回避に専念していたナナカが突然足を止める。
「ついに観念したかしら? それじゃあ、死になさい!」
そうして魔法弾がナナカの眼前へと迫った瞬間。
「マジカルホームランバットー!」
ナナカは、何もない空間から金属バットのようなものを取り出した。
「マジカルー……ピッチャー返しっ!」
そして、ブゥン、という風切り音と共に、肉眼では捉えられない速度でバットが振られる。
しかしホームランバットなのにピッチャー返しとはどういうことなのか。
そもそもマジカルの要素は一体どこにあるのか。わけがわからないよ。
ナナカの神速のスイングによって打ち返された魔法弾はピッチャー……もとい、ハルカの元へと一直線に飛んでいく。
「ふごっ!」
そのまま魔法弾はハルカに命中し、遥か天空へと飛んで行った。
「やったー! ホームランッ!」
「わけがわからないよ……。しかも自分でピッチャー返しって言ってたし。全然ホームランじゃないじゃないか」
「ピッチャーごとバックスクリーンに叩き込めば、それはもう立派なホームランなんじゃないかな?」
「その理屈は(野球の競技的に)おかしいと思うんだけどね……」
なにはともあれ、今日1日だけで魔物1体と敵性魔法少女1人を倒してしまった。
「それじゃあナナカ。改めて、これからよろしくね」
「えー、もう終わりー? まだまだ遊び足りないのにー」
そう言いながらナナカはバットを振り回す。うっかり僕に当たりそうなので凶器を振り回すのはやめて欲しい。
あれだけの戦闘を行って、まだまだ余裕がありそうなあたり、最強、もとい最凶の魔法少女(物理)としての素質はありそうだ。
こうして、新たな魔法少女(物理)の伝説が始まるのだった。
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