第三のチャンス

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

第三のチャンス

 そして、冬が来た。僕らはまだ、なにもないまま付き合っている。プラトニックなんだと、僕は自分に言い聞かせていた。 「キレイな夕陽ね」  図書館での受験勉強帰りに、彼女が橋の上で言った。 「ほんとだね」 「見てるだけで、あったかいな」  彼女は山の上にまだ赤々と残っている太陽に向かって、大きく息を吸いながら腕を広げた。  目を閉じたその横顔に、僕はドキッとした。  白い息を吐いて、彼女は張った両腕を下ろした。僕をふり向いて、にっこりする。  僕は言った。 「満足?」 「うん。心があったまった」 「そう」  僕はうなずいて、いきなり彼女を抱きしめた。 「え! ちょっと」  慌てる彼女に僕は言った。 「体温じゃないよ、充電しといた夕陽の熱。」  とっさには言葉もない彼女から、ふいに離れる。 「おっと、充電切れる! セーフ!」  そんなことを言って。  彼女は、なにか言いたげに口を開いたが、その口を閉じて微笑むと、 「お日様、あったかかった」 と、言った。  ゆえに僕は、本当にお日様の熱を伝えただけのような気がしてしまって、お日様に軽く嫉妬した。  もう、万策尽きた。  あとは結婚するしかない。  遠いな……あの山くらいに。  僕は広大な景色の先に照る山と、それを背景に微笑む彼女との遠近に、自分がゆく果てしない道のりを重ね見た。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!