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第三のチャンス
そして、冬が来た。僕らはまだ、なにもないまま付き合っている。プラトニックなんだと、僕は自分に言い聞かせていた。
「キレイな夕陽ね」
図書館での受験勉強帰りに、彼女が橋の上で言った。
「ほんとだね」
「見てるだけで、あったかいな」
彼女は山の上にまだ赤々と残っている太陽に向かって、大きく息を吸いながら腕を広げた。
目を閉じたその横顔に、僕はドキッとした。
白い息を吐いて、彼女は張った両腕を下ろした。僕をふり向いて、にっこりする。
僕は言った。
「満足?」
「うん。心があったまった」
「そう」
僕はうなずいて、いきなり彼女を抱きしめた。
「え! ちょっと」
慌てる彼女に僕は言った。
「体温じゃないよ、充電しといた夕陽の熱。」
とっさには言葉もない彼女から、ふいに離れる。
「おっと、充電切れる! セーフ!」
そんなことを言って。
彼女は、なにか言いたげに口を開いたが、その口を閉じて微笑むと、
「お日様、あったかかった」
と、言った。
ゆえに僕は、本当にお日様の熱を伝えただけのような気がしてしまって、お日様に軽く嫉妬した。
もう、万策尽きた。
あとは結婚するしかない。
遠いな……あの山くらいに。
僕は広大な景色の先に照る山と、それを背景に微笑む彼女との遠近に、自分がゆく果てしない道のりを重ね見た。
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