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「前に説明したよな。この地方に伝わる伝説を」
「何だっけ」
俺はテーブルの上に運ばれてきたクリームソーダを一口、口に含む。やっぱりクリームソーダはうまい。
「この地方では人の魂を取る妖怪がいるっていっただろ」
「ああ、ゲゲゲの鬼太郎か何かに出てきた話か?」
「それはアニメだろ。俺が言っているのはこの地方に伝わる伝説の話をしているんだよ」
「そう怒るなよ」
照久はウンチクを語り始めると妙に真面目になる。そんな照久の話を適当に聞き流すのがいつもの俺の役割だ。
「……真面目に聞けよ。この辺りでは人の魂を盗む妖怪がいるんだ。『置いてきぼり』っていう妖怪の話だよ」
「それは『おいてけ堀』じゃなかったのか?」
「違うよ。『置いてきぼり』だ」
「ああそうだったな。『おいてけ堀』のパクリの話だったな確か。田舎とかだと有名な話をパクったりするんだよな」
照久が呆れたような顔で俺を見る。
おっと、ちょっとふざけすぎたな。あんまりふざけて怒らせるといけない。前にそのせいで照久が怒って途中で帰ってしまったからな。
「それで『置いてきぼり』ってどんな妖怪だ。……いや、そう睨むなよ。本当に忘れてしまったんだよ、すまん……」
俺が手を縦に立てて、ごめんと合図をする。
照久はため息をついて、仕方がないといった顔をする。
「じゃあ、もう一度説明するぞ。『置いてきぼり』っていうのは、この辺りに昔からいる妖怪で、人の魂を抜き取る妖怪のことなんだよ」
「それで」
「魂を抜き取られた肉体は、気づかずにそのまま自分の家に帰ろうとするんだ。でも、魂を抜かれているから肉体の方はだんだん弱って、最後には腐ってくるんだよ」
「ふむふむ」
俺がクリームソーダを飲む。
「異変に気がついた肉体の方は、魂が盗まれたことに気がついて自分の魂を探しに戻るんだ。そして魂を抜き取った『置いてきぼり』の所にいって『返せ』と言ったら魂を返してもらえる」
「返すって? 盗んだ金を返すみたいに魂も返すことが出来るのか?」
「それは知らないよ」
「そうか、お前にも知らないことがあったんだな」
俺は右手を上げてクリームソーダのおかわりを頼んだ。こいつの話が長いので全部飲んでしまったよ。
照久が俺のことをまた睨んでいる。
そうだった。こういうウンチク大好き野郎は知らないことがあるってことを認めたくないんだ。だから怒り出すんだよな、めんどうくさいやつだ。取り敢えず話題を変えるか。
「それで、魂を返してもらえなかったらどうなるんだ」
「……そうそう、それがこの話の一番大事なポイントなんだよ」
「そうか、よかった。じゃあ言ってくれ」
俺が興味があるふりをして言う。
「驚くなよ。魂を返してもらえなかった人間は、動く死体になるんだ」
「……」
「どうだ、驚いたか」
「それって、ただのゾンビだろ」
「……まあ、ゾンビと言えばゾンビかもな」
「やっぱり、こういう昔話ってパクリばかりなんだな」
「ゾンビが流行る前からこの話はあるんだよ」
「ふーん。でもパクリはパクリだろ」
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