奪われたもの

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「返してくれよ」 「何なんですか一体」  俺は近くにいたTシャツに英語で文字が書いてある男に話しかけるが、相手から無視される。  誰かが盗んだのは確かだ、それは間違いはない。  でも、誰が盗んだのか分からない。  俺は辺りを見回す。  そこにはカップルや団体の観光客や外国人まで歩いている。  たくさん人がいすぎて俺はめまいがしてきた。  この中から探さなくてはならないのか?  でも、早くしないと俺の魂を盗んだやつはどこかに逃げていってしまうだろう。  俺は10分前に魂を抜かれてしまった。  魂を抜かれてもすぐに死ぬことはない。  徐々に意識が遠のき、そして肉体が腐り始めるんだ。  そして完全に意識がなくなると、俺の身体はゾンビになってしまう。  そうなると、もはや手遅れだ。  後は近くにいる人間に手当たりしだいに襲いかかることになるんだが、ゾンビは知能というものがないので、すぐにまわりの人間たちに殺されてしまう。  俺が魂を抜かれたことも気づかれてはならない。  もし周りの人間に気づかれてしまったら、まだ意識があるうちに俺は殺される。袋叩きにあうんだ。痛みを感じながら、半分生きていて、半分死んでいる状態で苦しみながら死ぬんだ。  そんなのは俺はごめんだ。  早く魂を取り返さなくてはならない。  俺が完全にゾンビになるまでだいたい30分が限度だろう。  それまでに何とかしなくては。
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