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それは、偶然の出会いだった。 夜 駅前の雑踏の中に、彼女はいた。 人の波にのまれず、凛として、真っ直ぐに立って、時折立ち止まる人にむかって 歌を歌っていた。 伴奏は無い。 1冊の楽譜、1本のマイク、1人の歌声、彼女にあるのはそれだけ。 でもその1本の音が、真っ直ぐに僕の胸に届いた。 彼女の目の前に立って、一心にその声に耳を傾けていた。 気がついた時には、声をかけていた。 「あの、」 背に持っていた、ギターケースを手にして。 「一緒に、弾かせてもらえませんか」 彼女は何も言わなかった。 ただにっこりと笑って、譜面をさしだした。 僕も笑って、譜面を受けとる。 それは、偶然の出会いだった。
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