秋の週末

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「でもなんで、こんな所にピーナッツが…?」 女性は当然のように疑問を投げかけた。 儂は冷静に答えた。 「この寺の名前『金実寺』の由来、その昔村を大変悪い、2本角の鬼がこの山に住んでいたようです。その鬼は麓の民家を襲っては子どもを攫い、畑を荒らしました。村人はとても困りました」 女性は興味深そうに話を聞いている。 「そんな時、遊行途中の僧が村を訪れました。村人は鬼の話を僧にしました。すると一宿一飯の恩義でその僧が鬼を退治しようと言いました。 僧は、畑で取れた落花生の実を酒に漬けて呪文を唱えました。 そしてその酒を持って山に向かいました。 鬼の根城に着くとこっそり酒を置き、鬼が飲むのを隠れて待ちました。 すぐに気付いて酒を飲んだ鬼はもだえ苦しみました。 落花生には魔を下す力があるとされていたのです。 僧は朦朧とした鬼の隙をついて首を落としました。」 女性はやや顔色が悪いように見えた。 「鬼を退治した僧は鬼の家から奪われた物や人を取り返しました。 その時見つけた中に金色の果実があって、珍しい物だとして奉り、その場所に寺を建てました。」 「それがこの寺なのですよ。これが金実寺の伝説です」 女性は言った。 「結局、どうしてピーナッツを?」 「邪悪なものが入ってこないようにですよ。まあお呪いのようなものです。 最近あちこちの寺社で、色々被害があるそうなので」 儂は冗談のように言った。 彼女の背後には山間から太陽が頭だけ出していた。 「そんな由来だったんですね。知れて良かったです。ここまで来た甲斐がありました」 笑みを浮かべる女性。 「そうですか、それは何より。さあ、もうすぐ日没ですが、いかがなさいますか?」 手で境内を指しながら言う儂の問いかけに、彼女は首を振った。 「いえ…、今日は麓の宿に泊まるのでそろそろ行かなきゃいけません。 ……お邪魔しました」 そう言って深々と礼をした。 「わかりました。帰りの階段はお気をつけて。次はぜひ、本殿に参拝なさってください」 合掌して女性を見送る。 紅葉の道を歩き出した女性。 日没寸前の茜色に照らされて長く伸びる彼女の影には、頭から2本の角が生えていた。
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