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5
彼女は走りながら辺りを見回してた。
僕は彼女に手を振った。
まだ気づかない。
ようやく彼女が僕を見つけた瞬間、
彼女は笑って、うれしそうに走ってきた。
「すごく待たせちゃった?
まだ5分前だけど。」
「ぜんぜん。
なんか早く着き過ぎちゃっただけだから。」
「・・・よかった。」
僕は早速、さっき撮った時計台の動画を
見せると目を輝かせて
彼女がうれしそうにした。
「一緒に見られたらよかったね。」
「もう一度あと5分で見られるよ。
30分おきなの。」
「じゃあ、一緒に見てから行こうよ。」
そう言って二人で時計台を見ていた。
時計台を見上げる彼女の横顔は
2年前と変わらないのに、
少しだけ輝いて見えた。
友達以上恋人未満。
昔の元カノ。
彼女には彼がいた。
だけど僕たちはあの頃とても真剣だった。
出会った女性に彼がいた。
ただそれだけ。そう思っていた。
別れてしまったけれど
嫌いになったわけじゃない。
そして時間が経って今また一緒にいる。
パイプオルガンのような音が響き渡り
時計全体がおもちゃ箱のように
いろんなお人形が出てきた。
足を止めて見る人たちの輪ができた。
美しい音色にただ見つめるように見ていた。
終わった後に僕たちは少し街中を
歩くことにした。
なんだか恥ずかしいような
どきどきした気持ちで
二人並んで歩いた。
「誘ってくれてよかった。」
「僕の方こそ。」
歩きながら食事前に軽くお茶でもしようと
いうことになって喫茶店へ入った。
それからいろんな話をした。
彼とは僕と別れた後に
すぐに別れてしまったこと。
もともとうまくいってなかったからと
彼女は言った。
「勇作君は?本当に彼女今いないの?」
「呼び捨てでいいよ。
なんか君とか言われると変な感じ。」
「じゃあユウは?」
懐かしい響き。
いつもユウって呼んでくれた。
「いないよ。ナナさんは?」
「さん付けってユウに言われると
変な感じ。」
「だって年上のくせに。」
「恋人はいないよ。
振られてからいないな。」
「・・・振られたの?」
「もー鈍感!振ったのはユウでしょっ!」
一瞬言葉が止まった。
「え・・・。あれは振ってないよ。」
「は?だって彼のところに
戻ったほうがいいって言ったでしょ?」
「だって僕はナナにはふさわしくないって
思ったから。」
「え?ふさわしくないって何?」
あーかっこ悪い、言い訳になってるし・・・と僕は思った。
「ナナが辛いときに僕の前だと泣きたくても
我慢して笑ってるのが辛かったから。
きっとナナが泣けるだけの
頼れる自分じゃなかったと思ったんだ。
彼の方が僕よりもナナが落ち着けるなら
いいと思ったから。
だから・・あのときはごめんね。」
「・・・そんなことで離れて行かないでよ。
私は彼と別れようとしてたのに、
ユウがいなくなっちゃうんだもん。
すごくさみしかったんだよ。
でも・・・
嫌われちゃったわけじゃなかったんだ・・。
・・・良かった。」
微笑むように笑った。
その笑顔に胸がどきどきした。
そんなこといわれると思わなかった。
ナナさんはそう言ってコーヒーを飲んだ。
おいしいとうれしそうに微笑む。
その笑顔を見ながら僕は幸せな気持ちに
なった。
優しい時間が二人を包んでいた。
離れている時間を忘れるような
あったかい気持ちになった。
もう一度戻りたい。二人に。
もう戻れないのかな?
今までの離れていた時間を取り戻したい。
そう思いながら話していた。
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