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星たちが駆けてゆく。
おのおの朝を告げる鐘の音を低くあたりにさざめかせ橋の上を歌ってゆく。
銀の川はその足元にまろみたゆたい、その水面で星々が落とす影を静かに抱きとめ、そっと背中を押しては送りだす。
最後尾のたなびきを見届けると、山のてっぺんでは金色の烏が頭をもたげ始めていた。
烏は鳴くことはない。
ただ煌々たるその身は生命の色に満ちあふれ。
ゆるやかな羽ばたきは息吹となり空へ川へ大地へ金を銀を散りばめる。
宵の硯からこぼれ落ちた群青もじわじわとなじみ、あいまいだった雲と空の、空と山の境目が姿をあらわせば。
とうとうと流れる銀の川の下流に位置する丘で、夜明け前色の竪琴がふわりと奏でられた。
爪弾らかに愛おしそうに。
やや眩しげに伏せられていたハープの瞳が見開かれる。
にぎりしめる左の手のひらには柵でまどろんでいた朝露の名残り。
それもやがて懐かしい体温とまざりあうことを玉兎は知っている。
繰り返される限られた刻の逢瀬をいつの世も見守ってきたのだから。
そして祈るのだ。
汝らに幸あらんことを。
天にけぶる霞の御簾の向こう側で眠りにつきながら。
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