33歳の初恋

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 私、松井 音子(まつい ねね)は、秋川(あきかわ)市立西端(にしはた)小学校で2年1組の担任を務める教員だ。 比較的若い教員が多いこの小学校で、私は2年生の学年主任を任された。 初めての学年主任。 まだまだペーペーだと思っていただけに、不安しかない。  私は別に先生になりたかったわけじゃない。 子供の頃からピアノをやってきて、ピアニストになりたくて、音大付属の中学に進学した。 そのまま大学まで進学したけれど、コンクールでは、ピアニストで食べていけるほどの実績はあげられなかった。 最高で大学2年の時の全国3位。  一人っ子の私に、両親は惜しみなくレッスン料や学費を出してくれた。 だけど、一生、親のすねをかじって生きていくわけにはいかない。 私は、音大卒で就ける一番安定した職業として教職を選んだ。  だけど…… 思春期からずっと音楽科にいた私にとって、男性は父親と先生しか関わりがなくて、同僚という名の男性に出会い、ずっと困惑しきりだった。 子供の頃からレッスンに追われていた私は、合コンというものにも参加したことがなくて、同世代の男性といえば、学年にほんの数人いる温厚で柔和な数人の同級生のみ。 彼らは、私にとって、女友達も同然だった。  だから、私は、33にもなって、男性とお付き合いをしたことがない。 それどころか、初恋もよく分からないイタい三十路女になってしまった。 こんな私の行く末は、教師として一生独身で自活して生きていく他ないと覚悟を決めている。
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