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何でもない退屈な日だったの。
昼は水面の上から降ってくるお日様の光だけで十分綺麗だしその日は特に強い風も吹いてなかったみたいだから柔らかく揺れる波にうとうとしてただけだったの。
今日が満月だって知ってたから、こういう日は少し海から出てみてのんびり歌うのが気持ちいいから、そういう気分だったから、それだけよ。それだけ。どこでもよかったけれど満月が良く見えそうな浜辺を選んで歌ってたの。ここはあまり人間も来ないし生き物たちは静かだし海も綺麗だから割とお気に入りだったのを思い出したから顔を出してみたら柔い風が頬を撫でたわ。水に濡れた肌に当たる風は冷たいはずだけれどその日は少し暖かかった。
夜空を見上げると沢山の星たちなんて目に入らないぐらい大きくて明るいまぁるいお月様が登ってた。わたしは綺麗なものが好きなの、けれど月に手を伸ばしても届かない。だから海底からわざわざ見に行くのよ、案外楽しいものよ。あまりにも綺麗だったからすぐに歌い始めたわ、風も波の音も月の光も全部気持ちよかった。
なのに。
なのに、遠くからぱしゃりと波を弾く音が聞こえたの。深夜よ、普段は誰も居ないはずなのにそこには1人の人間の男の子が居た、わたしの方を大きな目でキラキラと見つめてた。手には淡いピンク色のものを持っていたわ、わたしが大事に持ってたモルガナイトの結晶みたいな色をしてたから同じ?と思ったけれどよくよく見たら小さな桜貝の貝殻だったの。
男の子なのに桜貝を拾うなんてちょっと可愛くなっちゃって悪戯に「だれ?」と呟いて帰ることにしたの。
何の変哲もない普通の男の子だったけれどあんなに綺麗な目をしてわたしを見てたのはきっと満月だったせいよね。
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