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それからも退屈な日が続くはずだったのだけれど、だいすきなたからものたちを見つめても遊んでみてもなんとなくあの男の子が気になってしまったの。ちょっとだけね。 今まで何回も人間を見てきたし人間がわたしを見る目も見てきたけれどあんなにキラキラした目で見てきた人間は初めてだった。あんなに目を輝かせてわたしを見るなんてよっぽど珍しかったのかよくわからない『恋』に囚われたのか、考えたけれどわたし考えるのは苦手なの。 ただ綺麗だった、すごく綺麗だった。綺麗なものがだいすきなの。そして面白いものもすきなの。軽い気持ちでぷかぷかおよぐ海月たちに「あの男の子、毎日あの浜辺に来るか確かめてみましょうよ。きっと明日も来るし明後日も来るわ。そうして100日もあの浜辺に来た時にわたしの気が変わってなかったらまた歌ってあげましょう、そうしましょ?」とちょんちょん続きながら冗談交じりに誓ったわ。 次の日に岩陰から見てみたら本当に来ていたの、探し物をするようにきょろきょろ目を動かしてそして少し肩を落としてまた桜貝を拾って帰ったわ。暇なのかしら、なんて思いつつも本当に100日間わたしを探し続けるのかすごく気になって仕方なくなったからその日からわたしの日常は退屈じゃなくなったわ。 はじめはほんの冗談で海月たちに誓ったの。そうしたら本当に100日間浜辺に来たの、毎日深夜に。びっくりしちゃった。その日も大きな満月が登ってたわ。拾った桜貝をぎゅっと握りしめてまるで神様に祈るように両手を重ねていたわ、おかしくてちょっと笑いそうになったもの。あなたが感謝をするのは神様じゃなくてわたしが誓ってしまった海月よ。 仕方ないから歌ってあげましょう、と思って顔を出したけれどあの子の瞳にまた同じ光景を見せるのは少しもったいなかったからもっと綺麗な瞳になるようにちょっと焦らしてあげようかなって 「待って。」 と声をかけて顔を上げるのを止めようとしたの、そしたら本当に律儀に顔を上げないの。わたしにとっては100日なんてたった少しの時間だけれど人間にとっては長い時間だったのかもしれないわね。空気も澄んでいたし風も穏やかだし、気持ちよく歌えたわ。 「天使がつついた小さな波 風が木々を揺らすように 波もゆるりと広がるの あの子が逃がした鳥はどこ あの子が拾った星はどこ 全部 全部 海の底 わたしの大事なたからもの 天使が触れた小さな玻璃 砂が流れてゆくように 波もしずかに広がるの あの子が掴んだ鉱石(いし)はどこ あの子が捨てた翅(はね)はどこ 全部 わたしの 海の底 わたしのわたしのたからもの」
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