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ダイニングのテーブルを挟んで俺たちは座っていた。
改めて対峙してみると、〈俺もどき〉は俺に似ているというよりも、俺そのものだった。昨夜、俺は右頬を蚊に刺されたけれど、刺されて赤くなった跡が〈俺もどき〉の右頬にもあった。それも全く同じ位置に。
「俺たちが双子だということはないよな」
インスタントコーヒーを一口啜ってから、俺は言った。
「そんな話、親から聞いたことないな」
〈俺もどき〉は言った。
「だよな」
「親が俺のクローンを作ったとか。万一俺が事故で死んだ場合に備えて、スペアとして作ったとしたら」
「二十五年前に人間をクローン化する技術なんてなかっただろ」
俺は否定する。
「いや、ナチスが既に開発していて……」
「ヒットラーのクローンを作っていて……か。それは、映画の話だろうが」
「ははは」
〈俺もどき〉は決まり悪そうに頭を掻いた、インスタントコーヒーをごくりと一口飲んで、
「そうすると、同じ俺が二人いるということになるな」
「ああ、俺が同時に二人存在することは事実のようだな」認めたくはないけれど俺は頷いた。「この現象をどう考えるかだな」
「そうだな、タイムマシーンなんてのはどうだ。一年後にタイムマシーンができていて、お前がそれに乗って現在に来たというのは」
「残念ながら、俺はタイムマシーンに乗った覚えはない」
俺は首を横に振った。
「俺も乗ってないんで、タイムマシーンは却下」と〈俺もどき〉は言って、「パラレルワールドはどうかな」
「パラレルワールドか。俺のいる世界とお前のいる世界が別々に同時に存在してるというやつだな」
「うん、それが何かの拍子に交わって一つの世界になったんだ。だからこの世界に俺が二人いるというわけだ」
成る程、そういう考えもあるか。
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