21話/嘘に込められた1割の真実

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「何か聞きたい事があるんじゃなくて?」 「素直に答えてくれるんですか?」 「それは内容にもよるけど……。俺を疑ってる様だから、ちょっとしたサービス精神はあるよ」  つまり今なら、答えられる質問があるかもしれないと言うことだ。そこでジークは、護衛のため控えているリョーイチに「席を外してくれませんか?」とダメ元で頼むと、キョウとの約束もあって「無茶言うなよ」と答えたリョーイチは雄を一瞥。雇い主の指示があれば席を外すつもりだろうが、雄は困った様子で思ったことを口にする。 「でもリョーイチが居ても居なくても、俺の返答に変わりはないと思うよ。背後にヒビキさんが控えてるのは変わらない訳なんだし」 「__それもそうですね」  今回雄の味方に付いてはいるが、ヒビキを裏切った経緯でのことではない。むしろヒビキの対応が相変わらずなので、拗ねて反抗を示してるだけだ。 「では、率直にお尋ねします」 「どうぞ」 「あの動画の締めくくりは、どういう意味なんですか? 何か頼まれたんですか?」  それとも、もし最悪な意味を示しているのだとしたら……。生真面目な性格ジークは、ヒビキにどう報告するべきか悩んでいた。  無論雄は、シュバルツがやろうとしている事が大体想像出来ていることもあって、遺言代わりに残したとしか思えないのだが__。 「あー。あれは、念押しだと思うけどな」  空き箱にあったメッセージをヒビキに伝えてないことを良い事に、雄は嘘を吐いた。 「念押し、ですか?」 「うん。実は空き箱の底に<ヒビキさんの力になって欲しい>って、書いてあったもんだから。ヒビキさんに金目の報酬じゃなくて、金曜限定の軍人カレーを要求したんだよね」 「ほんじゃ金目の報酬は、シュバルツに請求するつもりでいんのか?」 「当然だろ。そこまで出来た人間じゃないし、危険手当てとして。君らの報酬を増額しなきゃ割に合わない気がするんだけど……。さすがに限度があるから、シュバルツに支払ってもらうつもりでいるよ」  立っているのが面倒になって来た雄は、リョーイチの質問に答えながら傍にあった椅子をひくと、腰を下ろして頬杖を付いて言葉を続ける。 「まぁ報酬を支払うのがシュバルツだからと言って、無理難題を押し付けられても困るから……。メッセージの内容を伏せたまま、ヒビキさんと交渉した俺も悪いけどさ。依頼を引き受けた相手を疑い過ぎるは、良くないと思うよ」 「……すみません。軽率な発言でした……」  忠告レベルのお叱りだが、普段物事をスムーズにこなしているジークにとって、なかなかの精神ダメージだったようだ。  落ち込んだ様子で「ヒビキさんに報告してきますね」と雄に告げると、これ以上相手の機嫌を損なわないよう退室。思わず一息吐いてしまう雄だが、今度はタイミングを見計らってリョーイチが質問する。 「で、実際はどうなんだよ。お前、勝手に決め付けんなって。怒ってたよな?」 「何の話でしょうか?」  察しろとばかりに、棒読みでツンとした態度でしらばっくれる雄。直感が働いたリョーイチは、それ以上の追求はしなかったものの。顔を合わせようとしない雄の様子を見る限り、事態は予想より遥かに悪いようにしか思えなかった。
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