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22話/隠された代償
「おーい、ご飯出来たよぉ~!」
ホールから1段上の階に向かってコヅキが声を響かせると、最初に部屋から出てきたのはムグルだ。ジークは、ヒビキへの報告を済ませて直ぐ調理の手伝いに来たので、知らせる間も無くホールにいるのだが……。
「そこにいるの、ムグルさんだけ?」
「そうだけど……。隣かな?」
コヅキの質問に答えた後、ムグルがミーティングを行った隣の部屋を覗いてみれば、棚から出した資料で埋もれた四方の長机の片隅で。ぐったりと焦心しきった雄とリョーイチが、椅子に腰をかけて休憩していた。
「何してたの?」
「この手帳の他に、報告書の元となった資料があるって言ってたから……」
「パソコンの中じゃねぇの?」
「否。ボクもそれらしい原本を探してみたけど、パソコンの中にもなかったよ」
しかも有力候補だった部屋にも、それらしい物がなかったようで。後片付けのことなど考えず引っ張りだれた物を見たムグルは、溜め息に混じりに(食事の後は後片付けだな)と思った。
「とりあえず一旦休憩したら? 食事が出来てるよ」
「結構な時間をかけたな」
「デザート付きかもね」
取り掛かりが遅かったのもあるかもしれないが、時計を見ると間もなく14時。
軽く2時間は調理していたことになる。
リョーイチの疑問に、ムグルが考えられる可能性を答えると、難しいことばかり考えて糖分不足に陥っていた雄は、嬉々とした様子で立ち上がり。リョーイチは、ふとコヅキがティラミスをねだっていた事を思い出して、複雑な表情を浮かべて移動を始めた。
「甘いもん苦手なんだけどなぁ」
「晩酌に期待するしかないね」
けど、二階の吹き抜けからホールを見下ろしたムグルとリョーイチは驚いた。
各種一口サイズにアレンジを加えてはいるが、パーティー料理としか思えぬ華やかな食卓に、手際よくセッティングを済ませるキョウが出来る執事に見える。
「昼飯、だよな?」
「時間帯的にはね」
雄は素直に喜んでいるようだが、もはや料理好きのレベルではない。プロ顔負けの腕前に、何故武器片手に蕀の道を選んだのか不思議に思う。
「朝飯控えめにしといて良かった♪」
「余れば夕食に回すさ」
「皆さん、お好きな席に座って下さい」
「早く食べよっ♪」
丁寧に案内するジークに続いて、久しぶりのご馳走に我慢ならんとばかりにコヅキが声をかけると、各々が席に付いたところで合掌し、賑やかな昼食タイムとなった。
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