22話/隠された代償

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 その後、宣言通り荒らした部屋を片付けた雄が「昼寝する」と言って、2階の角部屋に移動すると、コヅキはここぞとばかりに入浴を堪能すると言って風呂場へ。ジークは再びヒビキに報告をするとリョーイチに伝えてパソコンがある部屋に引きこもると、キョウは「先に休憩をする」と告げてから雄が選んだ角部屋に隣接する部屋に向かった。 「いいのかよ。こんなマイペースで」 「急いては事を仕損じるとか言うでしょ?」 「そんなこと言って、オレ達を出し抜こうとしてんじゃねぇのか?」 「まぁそれもあるかもしれないね」  見張りとしてホールに残り、時を見計らって雄の様子を見に行こうと考えていたリョーイチだが……。どっからともなくオセロを持ってきたムグルに足止めを食らった事で、相手をしなから休憩の真意を言及。  はぐらかされてしまったが、ヒビキとは違ったやり方で一線を引こうとしている事ぐらいは勘付いたようで。リョーイチは、陣地を広げるために白石を差しながら問う。 「オレ達の実力を疑ってんのか?」 「いや。そこら辺は、ちゃんと理解した上で仕事を頼んでるつもりだけど……。利害が一致してるとは言え、君達にもがあったりするんでしょ? ボク等の仕事が、邪魔になってたりしてない?」 「__考えもしなかったな」  東京の実情が変わって、ヒビキと会うまで生き残る事しか考えていなかった。安全圏に避難出来ると言われても、故郷を捨てて逃げるような気がして納得いかなかったし……。  だからと言って、状況を一変させた謎の黒い球体をどうにか出来る術も実力もなくて。ただ意地になって東京に残って居ると言われても可笑しくないとは思っていた。 「東京が好きなんだね」  相手の勝手な解釈だが、そう言われて嫌な気持ちにはならなかったリョーイチは、照れ隠しに「不器用なだけだっつーの」と答えてから話題を変えてしまう。 「大体オレ達の心配をしてる場合じゃねぇだろ。アイツは平気なのか?」 「空元気に振る舞うのは、いつもの事だよ」  現にシュバルツの意味深なメッセージを受け取ってから、雄の顔色は悪い。出来るだけ明るく振る舞う事で、周囲に余計な心配を与えないよう心掛けてるようだが……。  感性で物事を見定めてるリョーイチには、無理しているようにしか見えなかった。 「相方のくせに見て見ぬ振りしてんのかよ」 「励ましてどうにかなる問題なら、とうに声をかけてるよ」 「__残されたメッセージの(こと)か?」  リョーイチが分かる日本語で発言された内容は、中身のない挑発的な言葉だった。  でも雄は、その結論に至った経緯を知っている。反応からして冗談が過ぎていることぐらいは、言葉を理解できなかったリョーイチでも分かるぐらいだった。  けどムグルは、黒石を盤に指して「さてね」と誤魔化すと、白優勢だったフィールドを黒に染め直して。勝ち誇った笑みを浮かべるのだから、相手をしているリョーイチにとって面白くない展開である。 「ちっ。やっぱ四隅取られると負け戦だな」 「今のボク達と同じ状況だね。残りの四隅を狙おうにも、これ以上の人員は限られた時間内に呼び集めるのは無謀。防戦になれば、勝てはしても決定打に欠けて引き分けになる。裏を返せば何かしらの犠牲を払わないと、完全な勝利は得られないだろうね」 「それでシュバルツって野郎が、犠牲になろうとしている。ってとこか」  雄が頭を悩ましてるヒントにしては、随分大体な発言に一瞬驚いてしまったリョーイチだが__。ひた隠しされるよりマシだと話に乗って、差した白石で1つ黒石を白に変えると、ムグルが状況に合わせて言葉を返す。 「記憶が不完全な雄なら、彼を失ってもダメージは少ないと見込んでの事だろうね」 「やっぱ胸糞わりぃ性格してんな」  それにリョーイチは、用意されたレールを走った先にある結末に納得がいかなかった。 「遺された奴はどうなる?」 「さぁ? そんなこと気にしてたら、自己犠牲なんて出来ないだろうし……。勝ちにいかないと、守れないものがあるんだろうね」 「お望み通りになるとは限らねぇだろ?」 「だからこそのフレム君だよ。彼は約束を無下に扱わない性格だからね」 「それで白羽の矢を立てたんなら、鬼畜にも程がある野郎だな。アイツ、多少なりとも記憶戻ってんだろ?」  でなけれは、何語か変わらないメッセージを理解出来るとは思えなかったリョーイチは、シュバルツの手の平で踊らされる現状に歯がゆさを感じた。 「打つ手はねぇのかよ」  リョーイチが盤上の黒石を白に変えた順に、ムグルが黒へと変えて追い詰めていく。  目の前のボードゲームが、まるで今から味わうことになる現状のようで。顔をしかめたリョーイチが尋ねると、ニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべたムグルは、ヒントでも与えるように応える。 「もしイレギュラーがあるとすれば、君達だろうね」  それがどういう意味なのか。言われて直ぐ理解できなかったリョーイチだったが__。  風呂から上がって来たコヅキが乱入してきたことで、勝負は引き分け。そこでようやくムグルが言いたい答えに気が付いたリョーイチは、面白いとばかりに笑みを浮かべると、角部屋に籠った雄に期待を寄せた。
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