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「気持ち悪っ」
雄は黙視した後、相手に聞こえないよう感想を呟いた。爬虫類は好きだが、ホラー現象は別である。捕食した瞬間の様は、人間の皮を衣服に見立てて着込んでいるかのように歪んだのだから……。
「道変えるか?」
「いや。出来る事なら、このまま真っ直ぐ行きたい」
目的もなく歩き回ってるだけなら、後戻りを考えても良いのに……。雄は、進化物の行く先を確認した後。真っ直ぐ突き進んで、ある程度の範囲までくると左折。
勘で歩いてるにしては、時折何かを探るような素振りで道を選んで行く。
「本当に勘で歩いてんのか?」
「それとも、そう言わなきゃならない理由でもあるのか?」
「まぁね」
勘の鋭いリョーイチとキョウに挟まれて、雄は苦笑いを溢しながら相槌を打った。
尤も認めたからと言って、ご丁寧に説明する気など雄にはないようだが__。
突然左側のブロック塀を凝視した雄は、塀の高さを確認してよじ登った。幾ら人口が減ったといっても、電気が通ってる地区には住んでる民家も多々ある訳で__
「雄!」
咄嗟にキョウが呼び止めるが、雄は塀を登った先に見えた光景に勢い良く怒鳴る。
「何してんだオマエ!!」
塀を軽々と超えて真っ先に行動に移した雄の様子から異常を察したリョーイチは、塀に足をかけて状況把握。鯉が悠々と泳ぐ池を挟んだ向い側に見える一室から、チラっと紺色の衣服が見えたが__。それより注目すべき点は、背中に深々と刃物を刺されて横たわる遺体と、それを狙って現れた化物から遺体を守ろうと庭を走り抜け。間一髪のところで、開いてた窓を閉めた雄の姿だ。
「回り込むぞ!」
何が起きたのか具体的に理解できなかったキョウだが、足をかけてた塀から飛び降りたリョーイチの指示で玄関に回り込むと、一足早く玄関から飛び出した紺色のパーカーを見て事態を飲み込む。
「当たりを引いたか」
それも最悪な形で遭遇したようで、犯人を追いかけて出てこない雄を気にしたキョウが足を止めると、庭先から沸いて出てきた化物が玄関へと移動してくる真っ最中であった。
もし屋内に雄がいるのなら、急ぎリョーイチの後を追いかけるべきだが__。化物の侵入妨げのために窓の鍵を閉め、カーテンと遺体が横たわる一室のドアを閉ざして来た雄が、一足遅れて玄関から姿を現した。
「リョーイチは?」
雄の質問にキョウが指差しで案内すると、急ぎリョーイチの後を追って走り出し、ヘッドマイクで雄がムグルに状況を報告する。
「犯人はリョーイチが追ってる模様。俺達もまだ見失ってない! 化物も犯人を狙ってるようだけどね」
「返り血の所為か」
獲物を探している時と比べて、俊敏で貪欲な程しつこく。何より出現率の高さが違う。
見慣れたリョーイチの後を追う最中にも、化物が道を阻む勢いで姿を現して事態が悪くなる一方だ。
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