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「なぁ、いいのかよ。ヒビキのオッサンに何も言わなくてよ」
あの後、雄の護衛の仕事は継続すると言い張って。ムグルと部屋を入れ替わったリョーイチは、大浴場で汗を流し、夕食をとってから部屋でのんびりと寛ぎ始めた雄に向かって、思っていた事をストレートに尋ねた。
「キョウに抜け駆けズルいとか。後で言われるんじゃないの?」
「言われねぇよ。むしろ、オマエがドストレートに尋ねて来た方が早ぇとか言われたし……。ジークも気になるってよ」
「ジークも一枚かんでるのか」
そうなると、女の子だからとシングルの部屋を利用しているコヅキも。リョーイチに何か言ってるに違いないと思った雄は、簡単に手を引いた理由として。確認をとるように、現地に住まう彼に尋ねる。
「それが普通なんじゃないの? リョーイチが、ポーンになった人間を助けたような逸話を聞いたことがあるなら別だけど」
「はぁ? 普通化物に食われたら死ぬだろ」
「__それもそうか」
言われてみれば、殺人を犯したパーカー野郎が進化物に喰われた時、雄は助ける事を諦めた事を思い出した。
「てか、言わなかった理由になってねぇだろ? ちゃんと説明しろよな」
「リョーイチは、まどろっこしい事が嫌いな性格なんだね」
「悪いか?」
「別に悪くはないけど……。リョーイチは、もし親友を助ける手段があるとして。それを実行しようとする奴が、何処の馬の骨かも分からない奴だったらどうする? 人任せに出来る自信があるの?」
すると、さすがに何が言いたいのか分かったリョーイチは、「なんだ、そう言う事か」と言って、ベッドに身体を預けた。
「ついでに言うと、仕事じゃないから自由に判断が出来るし、俺の身に何かあってもヒビキさんの所為じゃないから迷惑のかけようがないだろ? 精神面は別にして」
「お前、考え方がひねくれてんな」
「いいだろ別に。それに大分情報を与えちゃたから、先手を取られる可能性を考えると、出来るだけ不自然な縁の切り方はしたくなかったんだよね」
「つまり冷静に考えれば、オマエと一緒に居た方がいいってことか」
「だって宣戦布告されてんだよ? 東京の何処に居たって、何かしら仕掛けてくるに決まってるよ」
そこまで聞いて、リョーイチは突然腹を抱えて笑い出した。あのヒビキを出し抜いてみせたのが、こんなお人好しの塊みたいな奴なのだから尚更面白かったのだろう。
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