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26話/駆け引き
次の日。チェックアウトの手続きの後、お手頃価格で美味い朝食が食える店があるからと、サンシャイン内を移動していたところ。慌ただしく働く軍人がやたら目に入った。
恐らくヒビキが、攻めの体制を指示したのだろう。遠目にジークと共に活動するイヌカイの姿も見えたが、忙しそうだったので。声をかけることなく、目的の店で朝食を済ませると、荷を取りに隠れ家に戻った雄とムグルを池袋駅前で待ったリョーイチとキョウは、LINEで今から新宿に向かう事をジークとコヅキにだけ伝えた。
「冷静でいられると思うか?」
「ヒビキさんのことか?」
雄とムグルを待つ間、すばーっと煙草を吸い始めたキョウにリョーイチが尋ねると、相手を確認した後「どうだかな」と答えた相方が深刻な顔をしたところで話題を切った。
行方を眩ましていた親友が、突然化物になって敵に回るとは、さすがに想像していなかったと思われる。
「雄は何だって?」
「助ける手段がある内は、助けるスタイルでいくらしいぜ。詳しい事は教えるつもりなさそうだけどよ。ヒビキのオッサンに知られたくない手段なんじゃねぇかと思う」
「__お前の直感ってやつか?」
「お人好し過ぎんだよ、アイツ。とりあえず、取り巻きを減らしたいのは本音みてぇだから案には乗ったけどよ。地元でもない人間が、ここまですんのも不思議なもんだよな」
「そうだな」
そこでキョウが思い出したのは、雄が仲間内に頼まれる予定だった仕事の方だ。一行に時計を探しているような素振りを見せない様子を逆手に考え、あの本命がお目当ての代物を所持してるのだとすれば話が通る。
奇麗事で済むような話ではないと思うが、雄が単純に人を騙す人柄とは考えたくなったキョウは、それ以上の返答を慎んだ。
* * * * *
「お待たせ!」
「おう」
「荷物、それだけか?」
二三泊用の旅行鞄と冷蔵庫に残っていた食材を持ってきたのだろうが、消耗品を除くと私物は各自旅行鞄1つだけ。隠れ家に洗濯機やキッチンの備えがあるからから、十日以上滞在しているようには見えない。
声をかけてきた雄に応えたリョーイチは、気にもしてないが、彼の相方であるキョウが尋ねてみると、ムグルが苦笑いで答える。
「まさか化物の体液で、衣類がダメになるとは思ってなくてね」
「少し買い足して行くか?」
「軍の駐屯所が近ぇから、新宿で買うより選択肢があるぜ」
「じゃあそうさせてもらおうか、フレム君」
「うん。コヅキちゃんが選んだ服を戦闘着にはしたくないもんね」
しかし、着替えを購入して間も無く。
新宿への移動中に化物と一戦交えた結果。キョウが仕留めた化物の死骸を頭から浴びた雄は、早速購入した着替えを利用する羽目となった。
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