26話/駆け引き

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「初日を思い出すね」 「すまん、雄」  幸い新宿の隠れ家に近い場所だったことから、汚れたコートを脱ぎ捨て。荷物を隠していたビル内の給湯室でザッと頭を丸洗いすると、室内で暖をとって頭を乾かした後、日が暮れる前に移動を済ませたのだった。 「通りで手際が良いと思ったら、初日で経験済みかよ」 「ちょうどタイミング悪く、飛行タイプを()っちゃってね。洗っても落ちないし、合流するはずの仲間とも会えなかったから慌てたもんだよ。教えてくれるような人もいないから」 「だろうな」  けどリョーイチやキョウのような地元の目がなかったので。下手に魔法が使えない今が、雄にとって一番の災難だったりする。 「ムグル。俺、明日から普段着にする」 「その方が良いだろうね。コヅキちゃんが選んでくれた私服と然程(さほど)変わらないデザインだし、化物(ポーン)の体液で汚れても洗濯出来る繊維で出来た特別製だからね」 「そんな便利なもんがあんのかよ」 「ただ東京(ココ)だと目立つからね」  すると、コヅキが雄のために赤いパーカーを選んだ事を思い出したキョウは、「あ~」と相槌を打ってから雄が愛用しなかった理由をあげる。 「トラブル防止か」 「まぁね。あんま意味がなかったけど、本命が何時現れても可笑しくない今。ボクも明日から普段着にしようかな。まさかどの道を選んでも化物(ポーン)と遭遇するなんて、池袋じゃなかった事だからね」 「そう言やぁ、間引いた様子がなかったな」 「池袋はヒビキさんの指示で、あれでも定期的に軍が間引いてくれてるからこそなんだろうけどな」 「さすがだね」 「でもリョーイチやキョウみたいに、化物(ポーン)狩りを生業としてる人達が少なかなずいるんじゃないの?」  制服が統一されている軍人ばかり目が止まりがちだが、十日間自由に歩き回ってる中で化物(ポーン)狩りをしている者がいた。  けどそれで生きていけるかとどうかは、別問題のようだ。深刻な表情を浮かべたリョーイチとキョウに代わって、ムグルがこの場にいないコヅキから得た情報を口にする。 「それが此処等一帯、数ヶ月前までミイラ取りがミイラになってたらしいよ」 「その影響で新宿を拠点としてた奴等が狩り場を変えたり、新宿エリアの仕事を避けるようになったんだろ」 「珍しくもねぇ。軍人は化物(ポーン)ばかりを相手にしてる訳じゃねぇしな」  キョウの発言に続いて、リョーイチが椅子の背もたれに寄り掛かって言うと、雄は納得した様子で「ん~」と少し考えて提案する。 「さすがに新種だけ狩る、っていう訳にはいかないかな? 進怪物(ナイト)のように単体で活動してる個体だとしたら、いけると思うんだけど……」 「それはまぁ」 「出来なくもないかもしれないが__」 「今日みたいな状況だと、狩った後八方塞がりになるから」  いつもなら何とかなる精神で話を進める突リョーイチだが、相方を危険な目に合わせた自覚はあるようで。断り切れないムグルとキョウの代わに引き留めると、簡単に言ってくれるなとばかりに問題を呈示する。
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