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27話/擦れ違う望み
ところが、ヒビキの怖さを知らない雄とムグルは悠長なものだった。
雨は、一晩降り続け__。
12月18日の朝日が昇る頃に晴れた事で、午前中から見事な虹がかかり。庭では雀が賑やかに囀るリビングで、モーニング珈琲を嗜んでいたムグルにつっかかってきたのは、何故か短気を起こしたリョーイチである。
「おい、良い御身分だな」
「出発は十時のはずだけど?」
「ヒビキのオッサンが動き始めたってのに、随分余裕ぶっこいてんな」
「急いては事を仕損じるからね。それにボク達にとって、此処が一番安心・安全な場所なんだから。ゆっくりしたくもなるよ」
そうは言っても、魔力や魔法とは縁のないリョーイチからして見れば、居心地が良いカフェと住居を兼ね備えた一軒家。それも正面玄関の格子門は鎖で封鎖されてるため、人目を遮るために立てられたフェンス代わりの木板をすり抜け、庭からお邪魔したこともあって不自然の塊でもあった。
「ところでリョーイチ君は、朝から何カリカリしてるの?」
「言わなきゃ分かねぇ事じゃねぇだろ」
そう言ってリョーイチは、2階ではなく。
ロフトにあたる部分を親指で差した。
そこには寒さを凌ぐように身を丸まめて、ベッドで爆睡中の雄がいたりする。
「9時には起きるよ」
「もう軍は動いてるのにか?」
「ボク等は本来、軍の目を欺いて活動してる者だからね。これがあるべきなん姿だよ」
ーーと、ここで暇を持て余して朝食を作ってしまったキョウが「出来たぞぉ」と号令をかけ。目覚ましより早く目覚めた雄が、ロフトからひょっこり顔を見せた。
「食い意地が張ってるだけじゃねぇか」
「かもね」
「雄も食べるのか?」
「うん、食べる」
眠たそうな顔でキョウの問いに答えた雄は、閉じそうな眼をぬぐってから梯子から降り。パジャマのまま着席する前に、ラジオの電源を入れた。
すると、室内に侵入して殺人を行った者が遺体を化物に食わせていたことを報道した後。戸締まりを含め、鍵をかけるよう注意を促してから次のニュースを読み上げ始める。
「これで自己防衛が高まると良いね」
「初歩的の初歩じゃねぇかよ」
「でも知能を有する個体が実在してても可笑しくないんだろ?」
ラジオでは人間の仕業とされているが、雄が来なければ死んでたかもしれない経験をしたキョウは、黙々と朝食のホットドッグを頬張る雄に視線を向けた。
けど口に物が入って喋られない状態の雄は、優雅に二杯目の珈琲を嗜んでいるムグルにアイコンタクトを送った事で話が進む。
「それをこれから確かめに行くんだよ」
「当てがあんのか?」
「多分今ならね」
「今なら?」
ーーと、ここで雄が首を左右に振った。
リョーイチの質問にムグルが答えてしまった事で、オウム返ししたキョウには気付かれてしまう恐れがあったからだ。
「コヅキちゃんにバレると、此方に来そうだから内緒だってさ」
「心配しなくても、お節介ジークが余計なこと聞いて、通知ガンガン来てるけどな」
「同じく」
「怪我して欲しくないという、男心が分からない子は困ったもんだね」
けれど女心も知る雄は、ようやく口の中を整理したところで三人に突っ込みを入れる。
「それなら、GPS機能はOFFにしといた方が良いよ。絶対検索するから」
「確かに……」
「迂闊だったな」
「フレムはもうOFFにしてるの?」
「はじめっから」
ーーはじめっから?ーー
目を離すと直ぐ居なくなりそうな奴から、ちょっと耳を疑うような発言を聞いてしまったものの。ひとまずGPS機能を一斉にOFFすると、ちょうどGPS機能を活用しようとしてたコヅキが叫んだ。
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