27話/擦れ違う望み

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 __その頃。  ヒビキが率いた軍と入れ替わるように新宿駅にやってきた雄、ムグル、リョーイチ、キョウの四人は、弾薬を追加で補充しながら必要な情報を得るために渡り歩いた。 「あ? 昨日新宿の何処でドンパチしてたか 教えろ?」 「ヒビキさんに教えて貰えなかったのか」 「千代田区に近いもんなぁ」 「行きゃ直ぐ分かると思うぜ」 「飯田橋駅の近くだ」 「けど行っても何もないぜ」 「死者、行方不明者がいなかったからな」  気前よく教えてくれた顔見知りの軍人は、いつもの調子でリョーイチとキョウにベラベラとあった事を話してくれた。  それに負傷者は相変わらず出たようだが、久しぶりに死者や行方不明者がでなかったこともあって、現場を仕切っていたヒビキの株が上がっているようだ。 「さすがヒビキの旦那だぜ!」 「あの人の御膝下だから生きていけんだ」 「お前らもヒビキさんの言うこと聞いて、無茶なことすんじゃねぇぞ」  しかし、これからヒビキに無断で事を成そうとしているリョーイチとキョウは、耳が痛いとばかりに苦笑を溢すと、その場から礼を伝えて逃げるように立ち去った。 「いいの?」 「何がだよ」 「最後の忠告」 「今更かよ」  一応巻き込んでる自覚ので、雄がそれとなく確認をとってみると、口の悪いリョーイチは気にするなと忠告のスルーを決め込んだ。  勿論それは、相方であるキョウも同じようで。重ねて確認を取るようにアイコンタクトをしてきた雄に愛想よく微笑みかけると、新宿駅から飯田橋駅まで徒歩で約一時間。  昨日、一昨日の様子とはうって変わり、全く化物(ポーン)に逢うこと無く目的地に辿り着いてしまった。 「川向こう、マジで千代田区だよな?」 「あぁ」  神田川を挟んで見える千代田区を新宿区から眺めたリョーイチは、異様な程の静けさに違和感を覚えた。 「化物(ポーン)どころか、本部の連中も出歩いてないとはな。……不気味なもんだぜ」  異世界から来た雄とムグルは事情を知らないが、千代田区には軍の本部が有り。異様な程、化物(ポーン)の出現が多い地区の1つで。まず橋を渡って千代田区に移り住もうと考える一般都民はいない。 「雄、まさか用があるって言うのは」 「此処だよ。川は渡らない」  キョウが眉を潜めて尋ねると、余計な心配だと言わんばかりに川に背を向けた雄は応えた。__事情は知らなくても、あそこは踏み込んではいけない領域であることは知っていた。 「用があんのは現場跡かよ」 「証言通り何もないね」 「それとも何かのか?」  不服そうなリョーイチの発言の後に、ムグルが辺りを見渡して言うと、察しが良いキョウが雄に尋ねた。  理由もなく。ただ現場を視察しに来るだけなら、弾丸の追加補充なんて必要ないはずである。するとキョウの質問に答えぬまま、ピタリと歩んでいた足を止めた雄は、突然後ろに控えていたキョウの心臓を狙って伸びてきた鋭く尖った黒い触手をアストラル・ガンの胴体で受け止めた。  しかも相手は、リョーイチの心臓も同時に狙っていたため。傍にいたムグルもまた、咄嗟にアストラル・ガンで先端が鋭く尖った黒い触手を受け止めていた。
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