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一方ジークの案内でヒビキの執務室にやってきた雄は、ちょいと部屋を見渡してからヒビキと顔を合わせた。
「ご足労かけて悪かったね。ジーク、悪いけど念のために」
「分かりました」
恐らく盗み聞き対策を兼ねた人払いだろう。ヒビキが申し訳なさそうに手を合わせて頼むと、ジークは素直に部屋を出ていった。
「いいんですか?」
シュバルツを知ってるようなので、ジークもてっきり同席するものかと思ってた雄が尋ねると、「二人っきりで話したいんだ」と応えたヒビキが客席まで誘導してから話を切り出す。
「一方的に頼みを断ったの此方なのに……。また手を貸してくれて嬉しいよ、雄ちゃん」
「気にしないで下さい。俺を囮として、最前線で扱ってくれるってことですよね?」
つまり雄は、囮として協力する代わりとして。ヒビキは最前線に立つなと、遠回しに交渉を持ちかけたのである。
これにはさすがに打つ手を考えてなかったヒビキは、少し間を置いてから返答する。
「雄ちゃんは揚げ足を取るのが上手いね」
「そうでもしないと……。俺が囮役として役に立てるのは、これが最後だと思うんで」
雄は余計な事は言うまいと、ヒビキが興味を持ちそうな別の理由を述べた。
__無論、限りなく嘘では無い。
後五日もすれば、シュバルツの魂は限界を迎え。肉体より先に魂が死んでしまう。
その前に雄は、何としても今回の目的を果たさなければならなかった。
「フレム君としては、どう対処するつもりでいるのかな?」
「さすがに犠牲者が増える前に殺りますよ」
「じゃあ雄ちゃんとしては?」
「アイツが一番気にかけてることを含めて、約束を果たす形がベストだと思ってます。だからヒビキさんは、シュバルツから預かった時計を返して。一発ぶん殴ることだけを考えといて下さいね」
雄としては、シュバルツの肉体が残ってる限り。叶えてあげたい望みとして伝えると、シュバルツが化物に成り果てたと勘違いしてるヒビキは、慰めてくれてるのだと思い。はにかんで「分かった」と応じた。
「それとGPSが必要なら、今の内に受け取っておきますよ。血で誘い出してる訳じゃないんで」
「えヾ、そうなの?」
化物は血の臭いで群がるのが常識のため、雄もその手を使ったのだと思っていたのだが……。言われてみれば、雄は怪我ひとつしてない状態でヒビキと対面していた。
「今回は、人目がない・誰も近づかない・ドンパチしても迷惑かけない。3拍子が揃った場所があるとすれば」
「__軍の戦場跡地」
ヒビキは、狙って擦れ違いを起こしたのばかり思ったのだが……。雄の狙いが軍の戦場跡そのものだと気付いた時、可愛い顔してとんだ曲者だと頭を抱えた。
「それで正確な位置を知るために、わざわざ駅で情報収集を?」
「リョーイチとキョウなら分かると思って」
それを聞いて、(そりゃそうだろう)と項垂れるヒビキ。彼等は東京出身の東京育ち。
迷うと有名な新宿区も縦横無尽に歩き回っているのだから、分からない方が可笑しいぐらいである。
「後は決闘を申し込まれた側なんで。シュバルツが俺を見つけてくれるまで、ちょっとぶらついてたぐらいです」
「あ~、それでGPS」
「面倒なら無しでも一向に構いませんけど」
「面白い冗談だな。出発前には準備するよ」
頼りにしていたリョーイチとキョウのGPS機能をOFFにさせた犯人を特定したヒビキは、にこやかに選択を増やした雄にヘラっと笑って応戦すると、リョーイチ達のお目付け役として連れていく予定のイヌカイにLINEでGPSを手配した。
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