28話/嵐の前の静けさ

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***** 一方ジークの案内でヒビキの執務室にやってきた雄は、ちょいと部屋を見渡してからヒビキと顔を合わせた。 「ご足労かけて悪かったね。ジーク、悪いけど念のために」 「分かりました」  恐らく盗み聞き対策を兼ねた人払いだろう。ヒビキが申し訳なさそうに手を合わせて頼むと、ジークは素直に部屋を出ていった。 「いいんですか?」  シュバルツを知ってるようなので、ジークもてっきり同席するものかと思ってた雄が尋ねると、「二人っきりで話したいんだ」と応えたヒビキが客席まで誘導してから話を切り出す。 「一方的に頼みを断ったの此方(こっち)なのに……。また手を貸してくれて嬉しいよ、雄ちゃん」 「気にしないで下さい。俺を囮として、ってことですよね?」  つまり雄は、囮として協力する代わりとして。ヒビキは最前線に立つなと、遠回しに交渉を持ちかけたのである。  これにはさすがに打つ手を考えてなかったヒビキは、少し間を置いてから返答する。 「雄ちゃんは揚げ足を取るのが上手いね」 「そうでもしないと……。俺が囮役として役に立てるのは、これが最後だと思うんで」  雄は余計な事は言うまいと、ヒビキが興味を持ちそうな別の理由を述べた。  __無論、限りなく嘘では無い。  後五日もすれば、シュバルツの魂は限界を迎え。肉体より先に魂が死んでしまう。  その前に雄は、何としても今回の目的を果たさなければならなかった。 「としては、どう対処するつもりでいるのかな?」 「さすがに犠牲者が増える前に()りますよ」 「じゃあ雄ちゃんとしては?」 「が一番気にかけてることを含めて、約束を果たす形がベストだと思ってます。だからヒビキさんは、シュバルツから預かった時計を返して。一発ぶん殴ることだけを考えといて下さいね」  雄としては、シュバルツの肉体が残ってる限り。叶えてあげたい望みとして伝えると、シュバルツが化物(ポーン)に成り果てたと勘違いしてるヒビキは、慰めてくれてるのだと思い。はにかんで「分かった」と応じた。 「それとGPSが必要なら、今の内に受け取っておきますよ。血で誘い出してる訳じゃないんで」 「えヾ、そうなの?」  化物は血の臭いで群がるのが常識のため、雄もその手を使ったのだと思っていたのだが……。言われてみれば、雄は怪我ひとつしてない状態でヒビキと対面していた。 「今回は、人目がない・誰も近づかない・ドンパチしても迷惑かけない。3拍子が揃った場所があるとすれば」 「__軍の戦場跡地」  ヒビキは、狙って擦れ違いを起こしたのばかり思ったのだが……。雄の狙いが軍の戦場跡そのものだと気付いた時、可愛い顔してとんだ曲者(くせもの)だと頭を抱えた。 「それで正確な位置を知るために、わざわざ駅で情報収集を?」 「リョーイチとキョウなら分かると思って」  それを聞いて、(そりゃそうだろう)と項垂れるヒビキ。彼等は東京出身の東京育ち。  迷うと有名な新宿区も縦横無尽(じゅうえおうむじん)に歩き回っているのだから、分からない方が可笑しいぐらいである。 「後は決闘を申し込まれた側なんで。シュバルツが俺を見つけてくれるまで、ちょっとぶらついてたぐらいです」 「あ~、それでGPS」 「面倒なら無しでも一向に構いませんけど」 「面白い冗談だな。出発前には準備するよ」  頼りにしていたリョーイチとキョウのGPS機能をOFFにさせた犯人を特定したヒビキは、にこやかに選択を増やした雄にヘラっと笑って応戦すると、リョーイチ達のお目付け役として連れていく予定のイヌカイにLINEでGPSを手配した。
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