30話/形勢逆転の波

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 一方、人型が本体だと勘違いしている軍の状況は思わしくなかった。案の定続々と弾切れを起こし、撤退しようにも背後を見せた者から得体の知れぬ漆黒に沈められていった。 「ヒビキさん」 「分かってる」  しかし、このままでは新宿を生活圏としている住民が全滅してしまうと考えたヒビキは、引き際に悩んでいた。  そもそも雄とムグルを引き連れて応援に来なかった、自分の判断ミスに気付いた頃にはイヌカイも弾切れを起こし__。  目の前で直属の部下が餌食となる様を拝む寸前で、(まばゆ)い閃光が漆黒の行く手を阻んでイヌカイから遠ざけた。  「効果てきめんじゃねぇか」 「数が限られてるから、いい気にならないようにね」  安易に魔法が使えない事から準備した閃光玉は、子供騙しも良いところだ。  それでも圧制だった本命が怯み、一気に形勢逆転したことから上機嫌のリョーイチに雄が忠告すると、続いてやって来たキョウがぽかんと驚いていた司令官に指示を出す。 「ヒビキさんは撤退の合図を!」 「退路確保します!」 「後方支援は任せて♪」 「お、お前等……」  見ない内に協調性を身に付けた一行に、保護者のように面倒を見てきたヒビキは喜びを噛み締めた。最も相変わらず我が道を行くリョーイチは、閃光玉を投げまくり。行動を共にする雄が「もっと慎重に使ってよ!」と注意を促してたりするが、今までの苦労を考えれば可愛いものである。  一方主要な武器が弾切れした事で、護身用の武器へと切り替えたイヌカイは、確保した退路に仲間を促すジークに話かける。 「ジーク。アイツ等が使ってるもんは、殺傷能力があるのか?」 「ありません。あくまで嫌がらせの代物ですから」 「嫌がらせ?」 「フレムさんの話によると、アレは偽餌(ぎじえ)だそうで。嫌がらせで本体を引摺り出そうとしているんです」 「本体って__」  偽餌(ぎじえ)に悪戦苦闘を強いられていたというのに、悪い予感しかしない。  だからこそ撤退を促しているんだろうが、中にはチャンスとばかりに白い仮面を狙って銃撃を始める者が現れ始める。 「あっぶねぇな、おい💢💢💢」 「情報周知の徹底が出来ないのか」  間一髪流れ弾から逃れたリョーイチが文句を言うが、攻撃を仕掛けているのが建物内に待機していた軍人だと気付いたキョウは、現在進行形で作戦が遂行されていると勘違いが引き起こした攻撃であると推測。  こうなると的の間に飛び出し奴が悪いという、暗黙のルールが発動するから厄介だ。 「一旦退()こう! 流れ弾に当たって死ぬなんて、まっぴらゴメンだよ」 「同感だな」 「ヒビキさんにどうにかしてもらおう」  状況から身の危険を感じた雄は、同意したリョーイチをキョウを連れて、一旦本命の傍から離れる事を決断。銃撃を掻い潜って、安全地帯へ移動するが__。  
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