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「君か」
「人を犯人扱いしないでくれませんか?」
「ごめん、ごめん」
しかし、ヒビキはシュバルツから耳にタコが出来る程聞かされていた言葉があった。
フレム=ウイングこと鳳龍 雄は、何でも屋と言われる程の実績を持つ。不可能を可能にしてきた人物だと__。
人は見掛けに寄らないと言うが、それを目の前にしてヒビキは、どうしてシュバルツが親友を頼らなかったのか気が付いた。
相手は未知なる生命体。
致命傷を与える武器を所持していなければ、死に行くようなものだ。
そして、何故大切にしていた懐中時計を親友であるヒビキに託したのか理解した時。是が非でもシュバルツが守ろうとしていた相手が自分であると察ったヒビキは、呆れたように失笑してから質問する。
「雄ちゃんは此れから仕事? 手伝うよ」
「それは有り難いんですけど……。それを許さない人がいるんですよね」
そう言って再び雄が指を鳴らすと、スポットライトのように一点を照らす明かりの下にシュバルツが立っていた。
「ひとまず、これでヒビキさんとの約束は果たしたってことで」
しかし、雄がそんな事を言ってる間にシュバルツとの間合いを一気に詰めたヒビキは、利き手を力強く握りしめて本気で殴りにかかった。__殴りたかった。
けれどシュバルツの本音と策略に気が付いたヒビキは、このまま殴ると相手の思うツボのような気がして寸止めする。
「相変わらず良い勘してんな」
寸止めとは言え、勢いで突風が巻き起こっているというのに__。シュバルツの癪に触る褒め方に苛立ちを見せるヒビキ。
けどシュバルツ本人は、悪気で言ったのではなく。今は寸止めした相手の腕すら掴めないのだと伝えるために、何度もヒビキの腕を掴もうとして通り抜けていく様を見せた。
「__死んだのか?」
「まだ死んでねぇよ」
ようやく普段と違う半透明のシュバルツに気が付いたヒビキは、足があるのに実態のない親友の有り様に唖然とした。
付き合いの長さから、相手が嘘を言ってるようには見えないものの。どう見ても大丈夫そうには思えない。
「それにしても、お供まで連れて此処まで来るとはな。フレム先輩」
「ヒントをくれたら、助けに行くって。昔俺と約束したよな?」
この世界で生きて、仕事をするために老け込んでしまったシュバルツだが、心は違っていたようで……。口約束だったにも関わらず、先輩として、友達として、仕事仲間として。有言実行しに来た雄が頼もしく思えた。
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