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「まだ有効だったとは……。恐れ入るよ」
「にしつも、本当に此の世界は魔法が使い難いな」
「原因は分かっているが、手出し無用の掟だ。それでもアンタが此処まで来たってことは、コイツもろともオレを殺すつもりはないってことだろ?」
「!? シュバルツ、お前っ!」
「分かってる。お前に命を大切にするよう偉っそうなこと言っといて、この様だ。相談出来なかったのは、お前は軍人でオレはそうじゃない。巻き込みたくなかっただけだ」
そう言われると、声を荒げてシュバルツを睨み付けたヒビキは、何も言えなくなった。
もしシュバルツと同じ境遇に立たされた場合の事を考えると、似たような判断を下したに違いない。
「言っとくけど、俺も出来ることなら巻き込みたくなかったよ。頃合いを見計らって、俺だけ喰われてしまえば済む話だと思ってたけど……。さすがに、そんな事拘ってる場合じゃないと思って腹を括ったんだ」
そう言って雄は、無詠唱で光源の範囲を広げると、黒く頑丈な鎖にからまった数えきれない化物の顔が浮き上がった。
「本能を律することは出来ない。生きるためなら尚更だ。それを無理矢理制御して、どんだけ寿命を削るつもりでいるの? 俺が殺しに行く前に死んだら、元も子もない事ぐらい分かってるだろ?!」
「あぁ、反省はしてる。でも後悔はしていない。こうでもしなければ、守りたい者を守れなかった」
「だろうな。ヒビキさんの後に飲み込まれた軍人さんの姿がないけど、消化された訳じゃないんだよね?」
「あぁ、場外に破棄してきた」
『ぺいっ!?』
「扱いが酷いな」
雄が小言のついでに忘れかけた事を尋ねると、軽い口調で酷い事を言うシュバルツにオウム返しに問い返すリョーイチ、キョウ、ヒビキの三人。けどイヌカイ達の生存を確認出来た雄は、突っ込みを入れながらも肩を撫で下ろした。普通なら全滅である。
「それでも全員を救済出来た訳じゃない。二三人は確実に喰われたはずだ」
「それじゃあ早いとこ仕事しようか。シュバルツは……、そうだな。その状態でいると魂が傷付くだけだし……。ヒビキさん、シュバルツの力を自由に扱って構わないので。彼が肉体に戻るまで預かってくれませんか?」
本来なら仕事仲間である雄が魂を保護しなければならないところだが、シュバルツの性格を考慮してヒビキに相談を持ちかけた。
「肉体があるのか?」
「隠れ家にありましたよ。壁をぶち抜く必要がありますけど……。これ以上魂さえ傷付かなければ、シュバルツは生還出来ます」
「OK。後の事は本人に聞くよ~」
「お前、絶対怒ってるだろ?」
むしろ怒らない理由がないと思うが……。
いつもの調子でヘラっとした営業スマイルで雄に返答したヒビキは、この後突っ込みを入れてきたシュバルツに小言をぶつけながらも説明受けるのだった。
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