34話/報酬はいかほどに?

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「有名なのか?」 「ベガスの間だけどな」  キョウは、身近に軍の関係者がいることから所属出来ない。民間ギルド/ベガス。  黒い噂も耳にはいるが、表向きは荒れ果てた東京にはなくてはならない。仕事を斡旋してくれる組織である。  リョーイチが興奮している様子からして、名刺だけでも価値がありそうだが……。   「気持ちは有り難いが、さすがに貰いすぎやしないか?」 「だから報酬じゃなくて、迷惑料なんだよ。君達とは、これからも仲良くしたいからね」  すると口角を上げたリョーイチが、掛け声代わりに「そんじゃあ」と前置きすると、キョウと揃って手土産をテーブルに置いた。 「見舞品だ!」 「雄が起きそうになかったら、賞味期限を迎える前に食べてほしい」 「賞味期限?」  リョーイチが持ってきた品は、ビールとスポーツドリンクのようだが……。キョウが持ってきたのは、お手製のバウンドケーキとフォンダンショコラだった。 「旨そうだな」 「クリスマス・ケーキを食べそこなてるから絶対喜ぶよ」  店顔負けの出来にシュバルツが感心する一方で、ムグルはこの世界の習慣を思い出して喜んだ。雄はこの世界の出身ではないにしても、クリスマスには馴染みがある。  問題は、その雄が何時起きるかだが……。  不意に人の気配を感じたムグルが視線を上げると、ふらりと部屋から出てきた雄がホールを見下ろしてポツリと呟いていた。 「……お腹空いた……」  しかし、腹から声が出ていないこともあって、ホールにいた誰しもが何を言ったのか聞こえず。思わぬ再会に居合わせた者は、声を揃えて彼の名を呼んだ。 『雄っ!?』  けど倒れてから3日間、まともな食事を採っていない雄の思考は鈍っててーー。 「おまっ! 大丈夫なのか?!」 「自力でホールに下りるつもりだ」 「ちょっ、其処(そこ)で待て!」 「雄! ストップ!!」  呼び声に応えないまま、ふらふらとした足取りで階段を目指す雄を見て、慌てて迎えに走ったのはシュバルツ。ムグルがそれに合わせて、単刀直入に命令すると__。  手摺(てす)りをさばってはいるが、一・二段降りたぐらいで身体のバランスを崩し、駆け付けたシュバルツが掬い上げるように助けたお陰で大事に至ることはなかった。 「驚かすなよ」 「心臓に悪い」  胸を撫で下ろすリョーイチとキョウだが、当の本人はシュバルツに担がれた状態で腹の虫で返事をする始末。ムグルは呆れて、溜め息すら出なかった。 「積る話は空腹を満たしてからだね」  幸いキョウが手作りしてきたバウンドケーキとリョーイチが買ってきたスポーツドリンクがあったので、食事の前に最低限の糖分とミネラルは確保出来たのだが……。無言で食す雄に味わう余裕はなかった。
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