★13話/能ある鷹は爪を隠す?(2)

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★13話/能ある鷹は爪を隠す?(2)

 異論はないけど、気が進まない(フレム)は、逃がさないとばかりに右腕を首にまわしてきたリョーイチの顔色を窺って考える。  ムグルは、愛用の武器を封じたことで、キョウと変わらぬ実力であると証明してみせた。その代わり、(フレム)が最下位になってしまったものの。(フレム)の実力を測るのに、相方のサポートを担うキョウではなく。前線で化物(ポーン)と戦っていたリョーイチに白羽の矢が立つのは予測済みのはずだ。  つまりリョーイチが相手なら、(フレム)の実力は誤魔化せると思っての事なんだろうが……。 「めちゃくちゃ嬉しそうだね」 「そうか?」 「耳打ちされた報酬が良かったりするの?」 「そんなことないぜ。鰤で喜ぶのは、料理好きな相方(アイツ)ぐらいだ」  軽やかな口調で否定したリョーイチは、最後に耳打ちで(フレム)に報酬を伝えた。  どうやら、どちらが勝負に勝っても鰤は無料(タダ)になるようだ。  では、なぜリョーイチはご機嫌なのか?  (フレム)が不思議に思ってると、リョーイチはニカッと笑みを溢して尋ねる前に応えてくれる。 「まぁ俺は、肉弾戦(ケンカ)しても怒られないのなら万々歳だけどな」 「け、喧嘩?!」 「俺のやり方は、軍人が習ってるような行儀の良いもんじゃねぇんだよ」  そう言って、現在進行形で肉弾戦の訓練を受けている軍人に視線を送ったリョーイチは、面白くないと言わんばかりの怪訝な表情を浮かべた。 「システマっていうんだっけ?」 「あぁ。ヒビキのオッサンが得意とするもんだから、取り入れてるんだと」 「俺も習ったことあるけど……。ビビりな性格から身構えちゃって、相性悪いんだよね」 「マジか」 「むしろムグルの方が得意だよ」 「つぅかオマエ、本当に強いのかよ」 「知らないよ。スピードには自信があるけど、技量はムグルの方が上かも?」 「そうなのか?」  それにしては保護者と名乗るムグルは、余り心配していないようだが……。  どうやら(フレム)は、本気で自分が強いとは思っていないようで。顎に手を添えて考えてる様子から、リョーイチは実際相手にした方が手っ取り早いと思った。 「まぁまぁ、とりあえずオレが受け身担当してやっから。それで勝負するかどうか、判断すりゃあ良いんじゃねぇの?」 「それもそうだね」  考えてみれば、リョーイチは(フレム)の実力を知らないし、(フレム)はリョーイチの言う喧嘩レベルが分からない。  そこで受付を担当してたイヌカイに、ミッドの貸出しを要求すると、普段の様子を知ってることから心配される。 「リョウ、使い方分かって言ってんの?」 「バカにすんなよ、ワン公💢」  避難民として、サンシャインシティに住み着いてた時。イヌカイがリョーイチの稽古をつけるために使用していた代物なので、使い方は把握済みだ。  しかし、攻撃力が最大の防御的な思考を持っているリョーイチは、ミッドを両手にはめるなり。ジャブやアッパーの練習をするあたり、イヌカイは不安で堪らなくなった。 「えっと……。フレム君って、呼んでもいいのかな?」 「はい」 「悪いこと言わないから、身の危険を感じたら逃げるようにね」  そうでもしなければ、相手を病院送りにするまで殴り飛ばすリョーイチの性格を知ってるイヌカイは、ひょんな事で彼と手合わせすることになったフレムに同情した。  一方キョウ以外の相手と手合わせが出来ると、内心浮かれてるリョーイチは、そんなやり取りなど気にもせず、場所が空いたところで対戦相手に声をかける。 「フレム、行くぞ!」 「はーい!」 「気をつけてね」  身長差10cmばかし、筋肉量もリョーイチの方が上で。並んで歩くと弟分に見えてしまう(フレム)を気遣って、優しく見送るイヌカイ。  まさか彼が、誰よりも早くイヌカイの尾行に気付き。軍の目を欺き続けていることなど、現時点では知る由もなかった。
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