★13話/能ある鷹は爪を隠す?(2)

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「なんかやりずらいんだけど」 「気にすんなよ」  普段ギャラリーに囲まれての手合わせなどしない(フレム)は、フィールドをぐるりと囲む人集(ひとだ)りを気にしながらも、まずはリョーイチが構えるミッドの感触を確かめるための軽いパンチを数回。  ぽふぽふとやる気の無い音をきかせると、(もっと真面目にしろ)とミッドをつけた右手で軽くパンチしてみせるリョーイチ。  すると、どっから情報を得たのか。  野次馬の中からコヅキの声が聞こえる。 「ちょっとリョーイチ! フレム君に傷1つ付けたら、許さないからねッ!!」 「うっせぇ! 仕事だっつーの!!」  大体怪我を気にしてたら、肉弾戦(ケンカ)なんて出来やしない。リョーイチは、内心(面倒臭ぇ)と思いながら対応し、人間を素手で殴り飛ばすような行為に慣れてない(フレム)は、手を止めて苦言を呈する。 「リョーイチ、余所見されるとやりづらいんだけど」 「あ? つぅか、もっと体重乗せてこいよ」 「体重?」  つまりスピードがあっても威力がないので、効率が悪いと言うことだ。  そこで今度は、打撃力を意識してパンチしてみるものの。リョーイチから「軽い」と指摘を受けた雄は、一旦攻撃を止めた。 「どうすればいいの?」 「お前、腕や肩の筋力だけでパンチ入れてんだろ? 腰入れろよ、腰を! フォームはいいんだけどな」  そう言ってぼやきながらも、自分で構えてみせたり、雄にゆっくりとパンチさせては<腰を入れる意味>を伝えて。何処に意識をしてパンチをすると強打になるかを伝授。  すると外野から物珍しいとざわつかれた。 「普段人に教えることないの?」 「軍人には教官がついてるし、女を殴る趣味はさすがにねぇよ。キョウとは、よく喧嘩するけどな」  つまるところ正当な手合わせ経験は、余りないようである。カフェの口喧嘩の様子から、血が昇りやすいタイプなんだろう。  ムグルが相手だったら、本気で喧嘩になるところだったと(フレム)は思った。  一方、そんな対話をしながら準備運動を重ねる二人の様子を見ていたムグルは、腕を組んで思ったことを呟く。 「思いの外、順調だね」 「フレムのやる気を引き出すためには、自信をつけてやった方が早そうだしな」 「普段からそうしてほしいです」  リョーイチの実力は認めても、性格に難有りとばかりに、キョウの分析を聞いて文句を言うジーク。  実は、熱くなると容赦なく相手をボコッて病院送りにするため。今では、喧嘩を売るのも買うのも相方のキョウぐらいで。リョーイチを知ってる人間は、まず素手で喧嘩を売ることはなかったりする。 「ねぇ、試合時間制限した方がいいんじゃない? ヒビキさんに会う予定があるのに、怪我でもしたら大変だし」 「そうですね」  コヅキの提案にジークが現時刻を確認すると、リョーイチに褒められながら準備運動を重ねるフレムに聞こえるよう。両手をメガフォン代わりにして声を張り上げる。 「2分後には試合を始めて。1時までに決着が付かなかったら、折り半で鰤買ってくださーい!」 「マジで?!」 「ケチ(くせ)ぇなァ!」  しかし、そうなると是が非でも白黒付けなければ、鰤は無料にならないわけで……。 「そう言えばリョーイチ君は、寸止め出来るタイプなの?」 『え?』  ムグルの質問に、凍てつくギャラリー。  何度も相手を病院送りにした経歴は、誰もが知っている事実だが……。一番付き合いの長いキョウまで同じ反応からして、期待しない方がよさそうである。
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